1000円の積み立てでは
資産形成にはならない

 次に大事なのは、(2)の「働く人の賃金を引き上げること」である。

 一般のNISAの投資枠は年間で120万円、つみたてNISAのそれは40万円だ。iDeCoは立場や職業によって変わるものの利用限度額は年間14万4000円~81万6000円となる。つみたてNISAを例にとれば、年間40万円なので月額にすると3万3千円強となる。これでは少ないからもっと拡大を、というのは既につみたてNISAをやっていて、さらに積立額を増やす余裕のある人たちだろう。

 一般の人、特に若い人たちの中で今の生活の中から毎月3万円以上を投資に回せる人がどれぐらいいるのだろうか。もちろん「別に限度いっぱいにしなくても、積み立ては1000円からでもできる」ということを金融機関やFPの人たちは言うだろうが、それは建前の話である。

 月々1000円の積み立てでは、10年続けても“12万円”にしかならない。本気で資産形成しようと思えば、やはり現行のつみたてNISAの金額をフルに使うぐらいでないと、まとまった金額にはならないのだ。

 問題は今の限度額を引き上げることよりも、今の限度額でもお金を回すことができない人たちをいかに少なくするかということだ。そのためには働く人の給料を引き上げることこそ、第一にすべきことなのである。

 投資教育も中立的なアドバイスも、あくまでもその後の話だ。この手の話になると、どうも常日頃から投資をしている人の目線に基づく議論になりがちなのだが、実際に投資に回せる資金がない人たちの給料をいかに増やすか、という話のほうがはるかに重要なことではないだろうか。

 今回の資産所得倍増分科会は税制改正をにらんだ動きであり、短い期間で結論を出さねばならないため、どうしても器の議論になりがちであることは仕方ない。また、制度の使い勝手を良くしたり、制度を拡充したりすることはよいことであることは間違いないので、分科会においてはぜひ活発な議論をお願いしたい。

 だが、一方で、もう少し大きな政策課題として、日本企業の収益性向上と賃金の向上こそが本丸と認識し、さらに議論を深めてもらいたいものである。

(経済コラムニスト 大江英樹)