推薦見送りの理由は、補欠選挙の前、党内でも立正佼成会と関係が深いと言われる田沢智治元法相がとった行動を見ればわかる。「朝日新聞」(名古屋版 1996年3月20日)によれば、田沢氏は大垣教会へ出向いて、「南無妙法蓮華経」と書かれた白い襷をかけて、仏像を背にしてこう頭を下げたという。

「昨年、ご迷惑をかけた」「宗教法人法改正を慎重にするように主張してきた」(同紙)

 立正佼成会は当時、自民党を支持する新日本宗教団体連合会(新宗連)の主要団体を務めていた。新宗連の中には、宗教法改正に反対している宗教団体も多かった。完全に顔に泥を塗られた形だ。立正佼成会の幹部は、こう恨み言を述べている。

「自民党には裏切られた思いだ。これまで通りの支持はできない」(同紙)

 ここまで言えば、筆者が何を言わんとしているかお分かりだろう。役員名簿や財産目録の提出などが含まれた宗教法改正でも、これだけのハレーションが起きていた。立正佼成会に限らず、自民党議員は選挙支援を受けている全国の宗教団体に「謝罪行脚」だったのだ。

「法規制は避けたい」というのが自民党の本音か

 今、野党側が求めている「家族ら第三者による寄付の取り消し権」「マインドコントロール下での高額献金禁止」など法規制を自民党が認めてしまったら、自民を支える宗教団体からすれば、「裏切り」どころの騒ぎではない。自民党から「宗教票」がごっそりと消えてしまうだろう。

 ましてや、自民党の保守系議員には心強い味方である「日本会議」の中には、ネット上で元信者の方が霊感商法だったと告発しているような団体もある。法制化されたらこのような告発の動きが活性化することも考えられる。もしそれが注目を集めたら、旧統一教会問題の「再現」で、祝電を送った、式典で挨拶をした、と支援を受けた議員はボコボコに叩かれる。自民党としてもこのあたりの法規制はできることならば避けたいところもある。

 つまり、オウム真理教の問題が落ち着いてきたら、宗教法人基本法案をサクッと葬ったように、旧統一教会問題がトーンダウンしてきたら今回の「高額献金禁止」「被害者救済」の新法もお蔵入りにしてほしい、と願う人が自民党内にはかなりいらっしゃるというわけだ。

 これが旧統一教会と同一視されることを恐れた公明党が譲歩をしても、最終的には「被害者救済法」が骨抜き・塩漬けにされてしまうと筆者が心配している理由だ。

 ただ、この状況は見方を変えれば、宗教法人にとってはチャンスでもある。ここで積極的に「高額献金禁止」や「被害者救済」を後押しすれば、「おお、カルト規制に賛成しているということはきっと“良い宗教”に違いない」と世間の評価が上がる可能性もある。

 もちろん、長い目で見れば、自分の首を絞める可能性もあるが、新しい信者の獲得にプラスなるかもしれない。自民党支持の宗教団体の皆さんも、ぜひとも柔軟な姿勢でこの問題を考えていただきたい。

(ノンフィクションライター 窪田順生)