半導体とEV 西側は相互譲歩せよ 対中国のためPhoto:picture alliance/gettyimages

――筆者のグレッグ・イップはWSJ経済担当チーフコメンテーター

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 米国やその同盟国は、中国への依存を減らすべきことで意見が一致している。どの国もそれを単独では行えない点でも同意する。サプライチェーン(供給網)全体を維持できるほど大きな国はないからだ。それゆえ「同じ考えを持つパートナー国」間でサプライチェーン構築を進める「フレンド・ショアリング」が頻繁に呼びかけられている。今週の会合でも、米国と欧州連合(EU)は「サプライチェーンの多様化を促進し、経済的抑圧への反発力を築くための協調行動」を約束した。

 だが、このような美辞麗句で示された仲間意識の裏側で、保護主義や偏狭さといった昔ながらの習慣が再び頭をもたげている。第一に、韓国や日本、EUは、ジョー・バイデン米大統領が8月に署名し成立した「インフレ抑制法」に盛り込まれた電気自動車(EV)補助金が、外国メーカーを差別しながら、外国からの投資を取り込むものだと不満を訴えている。第二に、同じ顔ぶれの同盟国が、重要な半導体技術の中国への輸出制限に加わるよう求める米国の要請をはねつけている。

 ここで実現すべきはグランド・バーゲン(包括的な取引)だ。米国が同盟国にEV補助金を受け取る資格を与え、その代わりに同盟国は半導体規制に参加する、という取引である。それに伴う政治的駆け引きや詳細な条件はもちろん困難であり、場合によっては乗り越えられないかもしれない。だがこの調整がうまくいけば、米国にも同盟国にも経済的コストがほとんどかからず、長期的には大きな利益をもたらす可能性がある。

 EV補助金をめぐる混乱の発端は、バイデン氏の政策課題にかい離した動機があることだ。バイデン氏は再生可能エネルギーへの移行を加速させ、雇用を米国内に回帰させ、中国に対抗する協力態勢を強化したいと考えている。そのためインフレ抑制法では、北米で組み立てられ、電池には米国または米国と自由貿易協定(FTA)を結ぶ国で産出された鉱物を含んでいることを条件に、EV 1台当たり最大7500ドル(約100万円)の補助金を出すことになっている。

 日本や韓国、EUは、販売と投資が米国に流れることで自国のEV産業が苦境に陥ることを懸念している。「米経済が市場をゆがめるような支援を受けることで、世界の公平な競争条件が損なわれ、世界共通の目標――気候変動との戦い――がゼロサムゲームになる」。EUの執行機関である欧州委員会はそう不満を訴えた。同委員会は世界貿易機関(WTO)への提訴や、独自に補助金を支給することを示唆している。