日本人10人が犠牲となったアルジェリア人質事件。これから日本企業が進出を避けられない市場であるアフリカにおいて、大規模テロが発生し、数多くの犠牲者を出したことは、日本人にとってショックな出来事であった。では、そもそも今回の人質事件は、誰が、どんな目的で、なぜ日本人を標的にして、起こしたものだったのだろうか。1975年から2007年まで国務省に所属してナイジェリア大使の経験もある、アメリカ外交問題評議会(CFR)の上級フェロー(アフリカ政策研究が専門)であるジョン・キャンベル氏にこの事件の真相を聞いた。(聞き手/ジャーナリスト 瀧口範子)

主犯は“ミスター・マルボロ”
「巨額の身代金」目的の誘拐犯罪か

――アルカイダにも関連するとされるテロ組織によって、アルジェリアの天然ガス関連施設が攻撃されたことで、アフリカや中東で事業に携わる日本企業に懸念が広がっている。

John Campbell
(ジョン・キャンベル)
アメリカ外交問題評議会(CFR)の上級フェローで、アフリカ政策研究が専門。1975年から2007年まで国務省に勤務し、その間ナイジェリアへ政治カウンセラー、および大使として2回赴任し、それ以外にもヨーロッパ各地に滞在した。国連政治局のディレクターも歴任。ウィスコンシン州立大学マディソン校で歴史学の博士号を取得。著書に『Nigeria: Dancing on the Brink』がある。

 まず、アフリカでのテロ攻撃については、いくつか指摘しておきたい。

 第一に、今回の攻撃は、アルジェリアでよく知られた強盗組織による犯行で、典型的な誘拐犯罪であるという点だ。主犯はミスター・マルボロとも呼ばれ、かつてはタバコ強盗で知られていた。つまり、国際的に組織されたテロ活動ではない。政府や企業関係者を対象とした誘拐は、何百万ドルもの巨額の身代金が入る身入りのいいビジネスだ。彼らは今回もそれを狙い、最初にバスを乗っ取ろうとしたのだが失敗して、犯行がエスカレートした。

 第二に、「アルカイダに関連する」という表現は明確でない。マリ、ナイジェリア北部、そしてアルジェリアで活動するテロ組織はみな、急進的イスラム原理主義というレトリックを用いているが、それ以外に共通点があるようには見えない。すなわち、何か中央からの指示や資金があって活動しているという証拠はないのだ。

 第三は、こうしたテロ活動は政府の質が悪い国や、国内でも首都から離れた辺境地でよく起こるということだ。ことにマリ北部のような場所では、唯一通用するレトリックが急進的なイスラム原理主義なのだ。