晩期合併症対策には長期フォローアップを

 冒頭で紹介した「晩期合併症」についても、新しい試みが進んでいる。

 国立成育医療研究センターは、晩期合併症対策として、今年度にも全国の小児がんの患者情報を前向きに集めるデータベースの構築を始める。蓄積したデータを解析し、合併症の予防や治療指針の策定を行い、長期フォローアップに役立てる。大学病院や小児専門病院など小児がんを診療する約150施設が参加し、国内の小児がん患者のほぼ全てをカバーできる見込みだ。

「私がこの病院に着任したのは10年前ですが、当時から長期フォローアップは大事だと思っていました。というのも、昔に治療された方は当時の治療記録が入手できず、幼い頃の記憶もないため、歳月がたってから合併症が起きてもそれと気付かないことも珍しくありません。親御さんから知らされていない場合もあります。データがあれば、がんの治療歴を正確に知ることができるし、治療にも生かせる」

 小児がん経験者のなかには、進学や就職などの人生の節目で、合併症による成長や学習の遅れが障壁となり、悩みを抱える人も少なくないという。長期フォローアップの最終的な目標は経験者の自立にあるが、松本氏らは、将来的に蓄積した情報を解析し、学校や行政機関などに、小児がん経験者が抱える問題や対応策を示して行きたいとしている。

「また、こうしたシステムは海外でも整備されておりますので、日本も負けないようなデータベースを構築し、国際的に協力して、長期フォローアップの研究を進めて行くことも目指しています」

「8割治る」ではなく「2割治らない」

「医学の進歩により、小児がんは確かに8割治せるようになりましたが、依然として治らない人もいます。ですから私は、8割治るではなく、『2割がまだ治らない』ということを問題にしていきたいと思っています」

 これもまた、小児医療現場の悲願だろう。根底にあるのは、恐らく次のような体験だ。

「年に一例くらい経験するのですが、縦隔(じゅうかく、胸と胸椎に囲まれた部分)にできる悪性リンパ腫の患者さんが来られます。そのリンパ腫は気管を押すことで、ヒューヒューゼイゼイと聞こえます。喘息と全く同じ症状ですので、喘息の治療をされてしまうのが普通です。でもぜんぜん治らない。おかしいなと胸の写真を撮ると腫瘍が見つかる。その頃にはもう、腫瘍を治す前に呼吸がやられてしまう。私が診た8歳のお子さんは、金曜日の夜に受診して、土曜日に亡くなってしまいました。何十年も前の話で、今でしたら体外循環を回したりして救命するのでしょうが、とても残念な思いです」