ディズニーが「東京大空襲」のプロパガンダ映画を作成していた、無慈悲な内容とはPhoto:Hulton Archive/gettyimages

一夜にして12万人の命が失われたといわれる東京大空襲。1945年3月10日の深夜、米軍の爆撃機B-29が32万7000発もの大量の焼夷弾を一気に投下した。正確な犠牲者の数字はいまだに判明していないほどだ。実はディズニーの創始者であるウォルト・ディズニーは米国の将軍に心酔。東京大空襲を想起させるような“えげつない”無慈悲なアニメを作成していたのだ。

※本稿は、鈴木冬悠人『日本大空襲「実行犯」の告白~なぜ46万人は殺されたのか』(新潮新書)の一部を抜粋・編集したものです。

ディズニーが日本爆撃の無慈悲なアニメ
2年後に東京大空襲で12万人が犠牲に

 B-29による日本への精密爆撃。実は、アメリカ国民からの期待も高まっていた。1943年にこんな映画が制作されていたのを知っているだろうか。タイトルは『空軍力による勝利(Victory Through Air Power)』。戦争に勝つためには、空軍力が必要だと訴えるプロパガンダ映画なのだが、制作者を聞いて驚いた。あの、ウォルト・ディズニーだったのだ。

 ディズニーは、国民や政府に空軍力の重要性を訴えようと、自ら映画を制作し、せっせと航空軍の宣伝をしていた。映画は、ディズニーらしい柔らかなタッチのアニメで描かれていながら、内容はなかなかにえげつない。

 敵国である日本の地図を指差し、標的を明確にしたかと思うと、戦闘機が日本を目指して出撃する。その数がとにかく尋常ではない。画面の右から左へ次々と、まるでニコニコ動画のコメントの嵐のように、飛び去っていく。そして日本の都市の上空に着くと、爆弾が雨あられと落とされる。無数の爆発の閃光と黒々とした煙が画面を覆い尽くした。飛行機工場などの重要産業や、発電施設、ダム、石油備蓄施設などのインフラが粉々に破壊される様子が次から次へと映し出される。ちぎれた戦闘機の尾翼や廃墟となった工場が丁寧に描かれ、画面全体が炎に包まれていった。無慈悲な映画である。

 ナレーションは「空軍力は、敵の中枢に直接飛ぶことができ、敵の力を無効にする。都市を破壊し、水路を断ち、食料の供給を寸断することで抵抗力を失わせる」と長距離爆撃機の有用性を説き、敵国本土への戦略爆撃の必要性を訴える。航空軍の戦略と瓜二つの文言だ。さらに、恐ろしいことを言ってのける。「飛行機の広大な飛行範囲と破壊力は、地球上全てを戦場に変える。兵士と一般市民を隔てるものはなくなる」。

 兵士と一般市民を隔てるものはないとは、まるで無差別爆撃を肯定するかのようである。映画が描く世界は、その2年後に実行される東京大空襲を想起させるものだった。