若手を成長させる
三つのポイント

 そんななか、ホワイトな環境下で苦悩しているのが、中高年の管理職層だ。彼らは時間に制限があるなかで、若手にやりがいを与え、速いスピードで成長させなければならない状況にあるという。

「ある企業では、新入社員は必ず定時に退社をさせて残業時間を0にしているそうです。これは極端な例ですが、年々、新入社員の残業時間が減っているのは事実。一方、管理職の40~50代の新人時代は、残業して仕事の物量をこなし、成功と失敗を繰り返して成長したので、今とはまったく状況が異なります。自分の経験を元に『ここで踏ん張れば成長できる』と思っても、残業させられない。そのため、新人にチャレンジングな仕事を任せられず、若手は成長の機会を失う、という悪循環に陥っていますね」

 この悪循環を打開するために、まずは若手社員の成長意欲を見極めてほしい、と荒川氏。

「当然ながら、すべての新人が早い成長を望んでいるとは限りません。なかには、ゆっくり成長したい、プライベートを大切にしたい、という人もいるので、本人のキャリア展望や成長したいスピードを率直に聞くのが得策。成長意欲が高いと感じた新人は、早めに手を打たなければ、物足りなさを感じて離職する可能性があります。部下との1on1の時間を活用して、密にコミュニケーションをとりましょう」

 相手の意向がわかった後、以下の三つのポイントを押さえて新人に接すると育成につながるはず、と荒川氏はアドバイスを送る。

「一つ目のポイントは、若手が安心して自分の考えを話せる環境作りです。心理学用語で『心理的安全性の確保』と呼ばれ、お互いに信頼関係が築かれている組織は生産性が高まります。なので、彼らのアイデアや意見を頭ごなしに否定したり、『そうじゃない』『間違っている』などの否定の言葉や、問題指摘から会話をはじめたりするのはNG。若手が萎縮してやる気をそぐ要因になります」

 二つ目は、難易度の高い仕事を任せてモチベーションを上げる方法。その際、本人の強みや特性を考慮して仕事を振ると、失敗する確率を下げられるという。

「もちろん、上司には仕事を与えた責任があるので、しっかりサポートしてください。基本的な段取りをレクチャーして、実力が不足している部分はフォローに回る。規定の就業時間では足りなければ、本人の意向を聞いて残業を増やしてもらえるように人事に掛け合うのも、マネジメント業務の一つです。短い時間での新人の成長を促すには、こうした手間は惜しまずに行いましょう」

 また、周囲の中堅社員にも、若手にハイレベルな仕事を与える意図を伝え、チーム全体で伴走する体制を整えるのが理想とのこと。中堅社員をサポート役につけるのも有効だ。

「三つ目は、若手の価値観や行動スタイルを理解して働きかけること。今の若い世代は、個性や多様性を重視する教育を受けており、中高年代の価値観とは根底から異なります。彼らの価値観を尊重しつつ、会社の文化や組織の一員として働く意義、目的を伝えていくと、自社で働く“誇り”を持つきっかけになるはずです」

 最後に荒川氏は「管理職のみなさんは、今が踏ん張り時。諦めずに職場をアップデートしていきましょう」と、エールを送る。ホワイトさを維持しながら、やりがいを感じられる職場――。それこそが、令和の企業が目指すべき姿なのかもしれない。

【訂正】記事初出時より以下の通り訂正します。
15段落:「Great Place to WorkR Institute Japan 代表取締役社長」→「Great Place To WorkR Institute Japan 代表」
荒川陽子氏のプロフィール:「Great Place to WorkR Institute Japan」→「Great Place To WorkR Institute Japan」
(2023年3月30日17:42 ダイヤモンド編集部)