旧統一教会の解散命令請求が実現するとさらに「神格化」か

 こういう「成功者」ができると、後に続く若者が出るというのはどんな世界も同じだ。木村容疑者のように政治に不満がある人、日本社会の行く末を憂う若者からすれば、「ああ、この人の言っていることは一定の正義があるな」と山上被告のように評価をされるのは一番の喜びなのだ。

 そして、このような風潮を下支えしているのがマスコミだ。先ほどテレビをつけていたら、某ワイドショーで、木村隆二容疑者が主張していた「制限選挙」とやらを、スタジオに大型パネルを用いて丁寧に解説をしていた。拘置所でこのワイドショー報道を知った木村容疑者はガッツポーズをしているはずだ。「思想犯」や「無差別テロ犯」は自分の「正義」を社会に知らしめるためには、多少の犠牲があるのはしょうがないと考えているので、ありがたい「ナイスアシスト」になっている。

 つまり、日本のマスコミは、「テロリストの主張や個人的な事情」を詳しく報じて、模倣犯を刺激するという、世界でもかなり珍しい報道姿勢をとっているのだ。

 これから筆者が危険だと思うのは、旧統一教会の解散命令請求だ。もし請求が出たら日本政府が「カルト」と認定するわけなので、マスコミの旧統一教会バッシング祭りが始まるだろう。そうなると、山上被告の「テロ」は結果的に正しかったという誤解がさらに広まる。

「山上に続け」と言わんばかりに、次々と自分の「正義」を暴力で認めさせようという若者が、テロに走る。最悪、山上被告は、自分が死刑になることを顧みずに日本を「反日カルト」から守った“殉教者”として、歴史に刻まれてしまうだろう。そうなると、これからも多くの社会に不満を抱くテロリスト予備軍の「目標」として神格化していく。

「第三の山上」が世間を騒がす日も、そう遠くないのではないか。

(ノンフィクションライター 窪田順生)