効果があると言われると本当に効く?
経済政策の「プラシーボ効果」

 ある英語のテキスト(注)の受け売りだが、次のような話を聞いたことがある。

 かつて胃潰瘍の薬としては「ザンタック」という薬が有力で、1981年以前のある調査によると、患者への有効率は72%だった。ところが、1981年以降に「タガメット」というより有効な薬の臨床データが出回るようになると、薬の内容は何も変化していないのに、ザンタックの有効率は大幅に低下して、80年代後半に行われたある調査では、37%まで低下していたという。

(注)ブレンダン・ウィルソン、山本史郎著『大人のための英語教科書』(IBCパブリッシング株式会社)。東大の授業からできたという、中身の濃いテキスト。英文の内容自体が興味深く、また、米国英語と英国英語、両方の朗読CDがついている点もいい。

 原因は、「タガメット」の登場によって、医師の「ザンタック」に対する信頼が低下し、患者がこれを医師の態度から感じ取るようになったからだという。

 これは、薬効成分のない薬でも「効果がある」と言われて服用するとしばしば効く「プラシーボ効果」(偽薬効果)と言われる現象が、投薬する医師の態度にも関係していることを示す事例だ。近年では、薬の治験が医師にも新しい薬と対照実験用の偽薬とがわからないような形で行われるそうだ。

 この話を聞いて(テキストに付属のCDで聞いたのだ)ただちに筆者の頭に浮かんだのは、日銀の白川方明総裁の顔だった。

 日銀は、過去に何度にもわたる金融緩和措置を、彼らなりのペースと規模でしかなかったが実施してきた。しかし、白川総裁は、経済が成長しなければ、金融政策だけでは物価は上昇しないという趣旨のコメントを付け加えるのが常だった。

 白川氏の態度は、医師が投薬にあって、「この薬はよく効きますよ!」と言うのではなく、「あなたの健康管理が悪いと、この薬は効かない場合が大いにあり得ます」と言うような、ネガティブなプラシーボ効果をもたらしていたように思う。