セブン&アイが強行売却に動くのは
モノ言う株主から逃げるため

 そもそもの話に立ち戻ると、2022年5月の2次入札に参加した投資ファンドはフォートレス以外にはアメリカのローン・スター、そしてシンガポールのGICと計3ファンドだったのですが、どれも私から見ると不動産投資が得意なファンドです。

 一方で、1次入札に参加していた事業再生が得意なアメリカのブラックストーンは2次入札で応札しませんでした。

 セブン&アイがどこまで意識していたかどうかわかりませんが、この時点で不動産解体に興味を持ったファンドにそごう・西武を売却することが既定方針になってしまっていたわけです。さらに、前述した「計画の穴」を経営陣は見抜けていません。

 それでもセブン&アイは、今日9月1日に、そごう・西武を強行売却するはずです。従業員もテナントも顧客も豊島区も得をしないにもかかわらず、なぜセブン&アイが強行売却をするのでしょうか。

 それは、セブン&アイの株主の間に、根強い「井阪氏“不信任”」の動きがあるからです。これこそが、今回の騒動の本丸にあるセブン&アイの経営問題です。

 今年5月のセブン&アイHDの定時株主総会で、投資ファンドの米バリューアクト・キャピタルが、井阪隆一代表取締役社長ら4人の退任を実質的に求める取締役選任案を提出しました。

 この提案は総会では否決されたのですが、バリューアクト以外の海外機関投資家にも影響力のあるアメリカの議決権行使助言会社がこの提案に対して賛成を推奨したことが注目を集めました。

 つまり、モノ言う株主がセブン&アイの経営陣に対して「No」を突きつけたわけです。

 彼らがセブン&アイに対して不満を感じたのは、「グローバルコンビニ事業にフォーカスすれば強いビジネスモデルで世界最強の小売りになれる可能性があるのに、今のセブン&アイは国内のイトーヨーカドーを抱えて経営資源が分散している」という点でした。

 イトーヨーカドーは早々に手放すべきだということに加え、「そもそも井阪氏にグローバル経営の才覚がないのではないか」というのが井阪氏“不信任”論の主張です。

 総会ではこの提案は否決されるとともに、セブン&アイとしてイトーヨーカドーとセブンイレブンとのシナジー戦略を強く主張することで、ファンドの提案を完全に退けた形になったのですが、この一件は、社内では圧倒的な権力を掌握する井阪氏も、その玉座を脅かすものがあるとすればそれは株主の圧力であるという事実を印象づける事件にもなりました。

 そして現実のセブン&アイはグローバルコンビニ事業に力を入れるどころか、昨年のそごう・西武売却パートナーの選定に不動産ファンドを選ぶという経営判断ミスを犯しました。さらにその結果、百貨店売却にものすごく多くの経営エネルギーを割かなければならないという状況に追い込まれています。

 このままでは、来年の株主総会で株主からどのような提案が出てくるかわかったものではない。だったら9月1日で株式売却を強行して、あとはファンドと従業員の間の問題にしてしまったほうがいいというのが、透けて見えてくるセブン&アイの逃げ得戦略なのです。

 仕事を失いたくない気持ちは、社員も経営陣も同じです。地位を巡る戦いの第一ラウンドは経営陣の勝ち、百貨店従業員の負けに終わりそうです。