大学時、母の猛反対を押し切って歯列矯正を決行

 中学、高校と成長するにつれ眉根さんは歯並びが悪化。母親は外出先で歯列矯正している人を見かけると、「なんだあれ、無駄なことして!矯正なんかしたってお金取られるだけなのに!」「矯正器具なんて付けてみっともない!どうせ治らないくせに」と事あるごとに眉根さんに吹き込んだ。

 それでも眉根さんが諦めずにいると、母親はおかしな説教を繰り返し始めた。テレビに当時『五体不満足』で話題となった乙武氏や、重度障害者が映るたび、「乙武さんは手足なくても明るいのに、なんであんたは歯の矯正なんてしたがるの?」「あれと比べたら自分がマシって思わないの?」などと言い始めたのだ。

 母親は、「あんたは健常者に生まれた勝ち組なんだから、歯並びなんて我慢して当たり前」「歯列矯正なんて贅沢やわがままは許さない」「最近の若い人が歯列矯正や美容整形するのは親への感謝が足りていないからだ」「普通学級に重い障害を持つ子を入れてその苦労を見せつける教育を施せば、自分を健常者に生んだ親がどれだけ偉いかを理解して親の言う通りにする子が増えるはず」などと言い聞かせ、歯列矯正を諦めさせようとする。

 男女交際については禁止とは言われなかったが、「男の子は歯の矯正している子が嫌い。隣にいたら気持ち悪いはず。あんたの幸せを考えて歯の矯正させないんだから感謝して!」と、やはり歯列矯正に結び付けて口を挟んできた。

 大学生になった眉根さんは、必死にアルバイトをしてお金を貯め、卒業を目前に控えた4年時に大学病院の矯正歯科に駆け込んだ。

 歯科医にこれまでの経緯を話すと、「金銭的理由で反対されて、成人後に歯列矯正する人はいるが、成人後に自分のお金でやると言うのに猛反対する親の話は今まで聞いたことがない」と驚く。

「先生はただ治療を引き受けるだけではなく、私の母のために、『歯列矯正について疑問に思うことがあれば質問する時間を設ける。どうして娘さんの歯列矯正に猛反対するのか聞きたい』とも言っていましたが、結局母は先生と話そうとはしませんでした。私が治療を始めてからも、私にはうるさく言いつつも、『先生になんか言われなかった?』と先生に対してびくびくしていました」

 反対咬合の矯正治療では手術をするケースもあるが、全身麻酔を用いるため、成人であっても家族の同意が必要だ。しかし眉根さんは母親が猛反対しているため、手術なしの単独矯正となった。