加齢による難聴と
耳鳴りの深い関係

 そのほか、加齢によって耳の聞こえが悪くなる「加齢性難聴」による耳鳴りも緊急性は低い、と富田氏。

「私たちの聴力は20歳から少しずつ低下していき、年齢とともに“高音”が聞き取れなくなっていきます。高い音の電気信号が脳に届かなくなると、“難聴の脳”になります。脳はより多くの高音を受け止めるために『大脳聴覚野』の高音部分のみ、神経活動を活発にする。その結果、脳が過度な興奮状態になり、高い音の耳鳴りが聞こえるようになるのです。これが加齢性難聴によって耳鳴りが生じるメカニズムです」

 年齢を重ねると、蚊が飛ぶ音を意味する「モスキート音」など、日常生活では聞こえなくても困らない高い音から聞き取れなくなっていく。そのため、加齢性難聴を自覚するまでには時間がかかり、耳鳴りの症状だけを感じている人も多いという。

「耳鳴りに悩んで当院を訪れた患者さんの約9割が、加齢性難聴を併発しています。男性ならば55歳以上、女性は60歳以上で、一日中、両耳に『キーン』という金属音や『ピー』という電子音が半年以上続いている場合は、加齢性難聴の可能性が高いですね」

 加齢性難聴が進むほど、耳鳴りの音が大きくなるのも特徴。年齢による聞こえの悪化と耳鳴りは、深く関わっているのだ。

「加齢性難聴の耳鳴りは、誰しも発症する可能性があります。現代医学での根治は難しいです。あまりにも耳鳴りが気になるなら、その音をかき消すような雑音や『ホワイトノイズ』と呼ばれる音を聞く『音響療法』をおすすめします。そのほか、趣味に没頭するなど、脳全体を活性化させて耳鳴りから意識をそらす時間を増やすのも効果的です」

 また、難聴を自覚しているならば「補聴器の使用」も解決策の一つ、と富田氏。

「補聴器を通して、聞こえにくくなった高音が脳に伝わるようになると、神経ネットワークが変化して“難聴のない脳”に戻ります。それに伴い、耳鳴りも聞こえなくなるのです。『補聴器外来』など、専門の医療機関で適切な診察を受けてから使用しましょう」