「線虫がん検査つぶし」であらわになった、PET検診の不都合な真実PET検診の関係者による「線虫がん検査」への疑念の拡散は、正当なのか(写真はイメージです) Photo:PIXTA

「線虫がん検査」への疑惑報道に追随、
PET検診関係者に覚える違和感

 異様な事件が起きている。始まりは9月11日。会員制のニュースサイト「NewsPicks」(以下NP)」が、「【スクープ】世界初「線虫がん検査」、衝撃の実態」と題する記事を掲載し、以降15日まで6回に渡り、大特集を展開したのである。

 その記事はボリュームの多さと、6月に福岡大学で開催された「第31回日本がん検診・診断学会(会長:長町茂樹 福岡大学病院放射線部第二・教授)」の「主題2 放射線 PET検診と線虫検査」の発表に基づく内容だったことから”信ぴょう性が高い“と注目を集め、特に「線虫検査の精度は広告の内容よりもかなり低いのでは」と兼ねてより疑念を抱いていた医療関係者らを中心に拡散された。

 中でも衝撃的だったのは、線虫検査の本当の感度は「13%」とするPET検診界の重鎮(日本核医学会PET 核医学分科会 PET がん検診ワーキンググループ、以下PET検診WG)陣之内正史医師による試算だったのだが、これが何とも不可解なものだった。

 というのも、PET検診にかかわる医師やがん専門医の共通認識として、「PET単独では、早期発見できるがんは多くない」という事実がある。

 前出の陣之内医師のワーキンググループが作成した「FDG-PET がん検診ガイドライン 2019」FDG-PETがん検診ガイドライン2019版.pdf (jsnm.org)でも、併用検査に関する詳細は各検査についての文献や指針を参考にすることとして最初に「PET は一度に多くの種類のがんを発見でき、一般にがんの早期発見に少なくともある程度は役立つと期待されるが、他方 PET がほとんど役に立たない種類のがんもあるため、がん検診に PET を用いる場合は他の検査を併用する『総合がん検診』が望ましい」と書いてある。

 再発巣・転移巣(再発または他から転移)したがんや、がんのステージ(病期)を調べる目的では非常に役に立つが、早期発見を目的とする検診には向いていないのである。国としても、「PET検診によって、がんがどれくらいの精度で発見され、がんで亡くなる人がどれくらい減少するのかなどは、まだ十分なデータがなく、国が推奨するがん検診ではありません」と明言している。

 しかも、PETがあまり役に立たないがんは、ごく初期の原発がん(がんの始まり)、胃がん、食道がん、早期の子宮頸がん、スキルスがん(胃がん、一部の大腸がんと乳がんと肺がん)、腎臓、尿管、尿道、膀胱のがん(腎がん、膀胱がん、尿管がん、前立腺がん)、原発性肝がん(肝細胞がん・胆道がん)、脳や心臓のがん(脳腫瘍、悪性心臓腫瘍)、血液のがん(白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫)、5㎜以下のがんなどなど多岐にわたる。がん種ごとの患者数を単純に計算すると全体の80%以上にも及ぶのだ(※)

(※)がん情報サービス『最新がん統計』の2019年に新たに診断されたがんのデータから筆者が算定(5㎜以下のがんということで計算すると、PETで見つけられない割合はさらに増える)
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html

 胃がんや前立腺がんなど、患者数で上位を占めるがんの多くが、PET単独では早期発見できないからだ。(ただし、乳がんについては、近年開発された専用の「乳房PET検査」なら早期発見は可能)