このように、明日にしろ学期末にしろ、より大きな将来の欲求充足のために、今すぐの欲求充足を我慢できるかどうかで、勉強ができるようになるかどうかが決まってくるというわけである。

 学力を高め、試験で良い成績を取るためには、宿題をやったり、試験の準備勉強をしっかりやったりすることが必要である。それなのに、宿題をしなければいけないことはわかっているのに友だちから誘われると宿題を投げ出して遊びに行ってしまったり、試験の準備勉強をしないといけないことはわかっているのにテレビばかり見てしまったりするようでは、学力を身につけ良い成績を取るのは難しい。

 そこで問われるのが抑制能力、つまり長期的な欲求充足のために即時の欲求充足行動を抑制する能力である。これまでは、学業成績の基盤となるものとして知能が注目されることはあっても、抑制能力のような非認知能力が注目されることはなかった。ただし、教育現場に身を置く人たちは、日常の生活場面における抑制能力の重要性を痛感しているはずである。

欲求充足の先延ばしができる子どもの将来は?

 前回の記事で紹介したように、ミシェルの追跡調査によれば、マシュマロ・テストで欲求充足を先延ばしできた子は、およそ10年後に、欲求不満を覚えるような状況において、他の人たちより強い自制心を示す青年になっていた。つまり、子どもの頃に、より大きな欲求充足のために目の前の欲求充足を先延ばしすることができた者は、10年経っても相変わらず誘惑に負けにくく、ストレスにさらされてもあまり取り乱すことがなく、また目標に向かって計画的に行動できることが確認されたのである。

 さらには、そのような欲求充足の先延ばしができる者は、成人後の20代後半になっても、長期的目標の追求やその達成が得意で、そのため高い学歴を獲得し、衝動的に危険薬物に手を出すこともなく、食生活でも抑制できるため肥満指数が低いことが確認されている。

 その後も、多くの調査研究により、欲求充足を必要に応じてコントロールできる能力の重要性が確認されている。

 たとえば、心理学者モフィットは、1000人の子どもたちを対象に、生まれたときから32年間にわたって追跡調査を行うことで、子ども時代の自己コントロール力が将来の健康や富や犯罪を予測することを確認している。

 具体的には、我慢する力、衝動をコントロールする力、必要に応じて感情表現を抑制する力など、自己コントロール力が高いほど、大人になってから健康度が高く、収入が高く、犯罪を犯すことが少ないことがわかったのである。これは直接学力への影響に焦点づけたものではないが、アメリカは能力によって収入に大きな格差がつく社会なので、収入の高さなどは学力の高さを示唆するものとも考えられる。