無言が作る笑いもある。

 家に帰ってドアを開けたら、担任の先生とお母さんがセックスしていた。そのとき即座に「ええ?」と反応するよりも、「……」と間を入れて、息子が無表情でドアを静かに閉める。その方がくすくす笑える。そしてドアを閉めた後、しばらく経ってから「ええ?」と急に驚けば、さらに笑いが起こる。

 こうしたヒリヒリ感を生むのが、編集の「間」だとムネさんは教えてくれた。

 パソコンでデータをいじる現在と違い、当時の編集作業は全部アナログだった。

 3時間のロケに行ったら、紙袋にVHSのテープがいっぱいになる。それを映像編集機で再生しながら、使いそうな部分に編集点というものを打っていく。そして打った編集点から編集点までを別のテープに録画して、またロケのテープをキュルキュルキュルっと巻き戻し「セリフを言ったのはこのあたりかな」と当たりをつけて再生してみて、合っていれば編集点を打つ。間違っていればまた巻き戻す。その作業のくり返し。コピペもできなければ、カーソルを動かして必要なシーンを探すこともできない。それどころか5倍速、10倍速で再生することもできない。

 だから、アナログ編集はとにかく時間がかかった。「元気が出るテレビ」であれば、オープニングに使うたった5分間のVTRを作るのに、ロケ1日、編集に10時間はかかった。

 大変ではあったが、それでも「編集」は映像の仕事の醍醐味であり、それができるのはディレクターの特権だったのである。

 だからほとんどのディレクターはADに編集させるチャンスなんかくれない。ADはみんな、こそこそ先輩の技術を盗む以外方法がなかった。

 でも、ムネさんは違った。

 あるときふと「何回か俺の編集を後ろで見てたから、もうそろそろできるよな」と言った。

 バカを扱う天才が、俺にチャンスをくれたのだ。

「今回のロケの素材、おまえが先に編集しろよ」

映像の仕上がりをねぎらうPに
「師匠」は俺の手柄をプッシュした

  はじめは、ロケの素材の面白いところ、必要不可欠な情報だけを抜いてつなぐ「荒1」と呼ばれる編集をして、次に「荒2」という完成に近い編集をする。本編が5分だとしたら、「荒1」が15分、「荒2」になると6、7分の長さになる。「荒2」まで編集できたら、師匠のムネさんに見てもらう。