AI利用急増と半導体市況の変化

 ChatGPTの利用を皮切りに、世界経済のあらゆるところでAIの利用が急増している。総務省の『令和5年版 情報通信白書』は、2030年の世界のAI市場規模(売上高)は1兆8470億ドル(約260兆円)に増加すると予想する。また、国連貿易開発会議(UNCTAD)は、同年のAI市場規模を9兆5000億ドル(1350兆円程度)と予測する。

 成長期待の高さを認識するきっかけの一つは、米エヌビディアの決算だった。23年5月の決算で、純利益の伸びが事前予想を上回った。その後も、エヌビディアの収益は高い増加率を記録した。米国の先端分野の半導体に関しては対中規制強化があるにもかかわらず、世界全体でAIの利用は勢いを増している。精度の高いAI対応チップの供給は需要に追い付かない状況だ。

 GPU需要の拡大を追いかけるように、過去2年程度の間、市況が軟調に推移したメモリー半導体分野にも、変化の兆しが出始めている。23年7~9月期、韓国2大メモリー半導体メーカーの業績悪化ペースが鈍化したのだ。

 業績を下支えしたのは、AIに対応した高価格帯のDRAM需要の増加だ。特に、SKハイニックスはAIの深層学習を支えるHBMなど、より高性能なDRAMの研究開発や生産体制を強化した。その結果、同社はライバルのサムスン電子に先駆けて、エヌビディアのGPUの処理速度に対応したメモリー半導体の製造に成功した。

 そしてサムスンも、SKハイニックスを追いかけるように、HBMなどの製造体制を強化している。スマホやパソコンの需要が飽和し市況が軟調なNAND型フラッシュメモリーとは対照的に、AI利用急増を支える先端分野のメモリーデバイス分野では、韓国2大メーカーによるHBM開発競争が激しさを増している。

 23年10~12月期、SKハイニックスの営業損益が黒字転換するとの期待が高まっている。サムスン電子の半導体事業も、24年1~3月期には黒字を確保するとの予想が増えた。AI利用範囲の急拡大により、厳しい状況が続いた世界のメモリー半導体市況の一角で、成長の萌芽(ほうが)が膨らみつつある。