今回の動きは、単なる大型投資の発表にとどまらず、鈴木修氏と“じっこんの仲”といわれたモディ首相との関係を鈴木俊宏社長が引き継いでいることを内外に示したものとみてよさそうだ。その意味で、スズキとインドの蜜月関係は続き、現地市場だけでなく輸出基地としてもインドの存在感はさらに高まることになりそうだ。

 また、スズキは10日に「空飛ぶクルマ」と呼ばれる電動垂直離着陸機(eVTOL)を開発するスカイドライブへの追加出資を発表した。同社は、スズキと協力して27年にもインドで輸送サービスを始めることにしている。スズキとスカイドライブは、今春をめどに静岡のスズキグループ工場で3人乗り機体の製造を始める計画であり、スズキは「空飛ぶクルマ」でもインド市場をターゲットに乗り出してきている。

 このように、鈴木俊宏社長体制は、鈴木修氏のカリスマ経営からの脱皮する中で大型投資を含めた積極経営を進めている最中だ。

 余談だが、スズキもトヨタと同じ織機メーカーを源とし、豊田家同様鈴木家による “世襲経営”と見られるなど共通点が多いが、豊田家と違うのは2代目社長の鈴木俊三氏、3代目社長の鈴木修氏が共に婿養子だということ。現在の4代目の鈴木俊宏氏が、創業者鈴木道雄氏の初の直系の社長となる。鈴木修氏も2代目の鈴木俊三氏の娘への婿入りとともにスズキ入りしているが、男の子が生まれた際に義父の俊三氏から一字をもらって「俊宏」と名付けたそうだ。それ故、周囲の期待が大きいところもあるだろう。

 昨年、12月に早々と24年4月1日付の役員・組織変更人事を発表し、スズキは本格的な体制固めを行っている。鈴木俊宏社長を支える両輪は、右腕としてトヨタ出身の石井直己代表取締役副社長が社長補佐・経営企画・次世代モビリティ本部・EV事業本部などを幅広く統括し、また長らくインド事業を現地で統括してきた鮎川堅一副社長がグローバル営業を統括することになり、専務・常務役員クラスも刷新された。

 この24年は、鈴木俊宏体制が一層本格化するとともに、その手腕がより試されることになる注目の年だ。

(佃モビリティ総研代表・NEXT MOBILITY主筆 佃 義夫)