もともとの小児性愛障害傾向やアルコール依存症の側面、ワーカホリック、過度なストレス、逆境体験を伴う過酷な成育環境などさまざまな要因が複雑に絡み合い、加害行為に及んでいるわけです。

 しかし、やはり小児性犯罪者への児童ポルノによる影響は看過できません。児童ポルノを通して、彼らは「子どもは性的な存在である」というメッセージを受け取り、学習し、加害行為の成功体験とともに認知を歪めていくのです。

 児童ポルノが、小児性愛障害と診断された者の次の性加害の引き金になっている実態があるなかで、子どもを性的な対象として描いている創作物が、「守られるべき表現の自由」に値するのでしょうか。

 英語圏で行われた46の実証研究をPaolucci,et al.(2000)がメタ分析した結果、ポルノにさらされると、「逸脱的な性行動をとる傾向」「性犯罪の遂行」「レイプ神話の受容」「親密関係に困難をきたす経験」がいずれも2~3割程度増えることが明らかになりました。

 また、Ybarra,et al.(2011)が10~15歳の男女を対象に、「暴力的な性的描写の視聴経験」と「性的な攻撃行動」との関連性を調べた研究があります。それによれば、暴力的な性的描写を見たことがある子どもは、見たことがない子どもよりも、性的な攻撃行動をとった経験が6倍も高いという結果でした。

 一方、ポルノ規制が論じられる際によく引き合いに出される「カタルシス効果(ポルノによって性欲が解消されて性犯罪が減る効果)」という主張を支持する実験結果はほぼ皆無です。

 さらに、米連邦刑務局のBourke & Hernandez(2009)は、ネットを利用した児童ポルノの所持・受領・配布で逮捕された受刑者のうち、85%が子どもへの性犯罪を起こしていたことを明らかにしました。

 また、ネット上で児童ポルノにさらされると「児童を性的対象とみなす」「児童をモノ化する」「被害者の苦しみへの想像力が麻痺する」といった影響を受けることも示されました。そしてこれは、同様の欲望や性嗜好を持つ人々が集まるネット上のコミュニティに没頭した場合に、より強く現れることがわかりました。

 以上のような調査・研究より、たとえ一例でも児童ポルノが引き金となって加害行為につながり、被害者が出ているのであれば、児童ポルノの罰則や規制についてもっと真剣に議論するべきだと思います。