『書を捨てよ、町へ出よう』の復刻版『書を捨てよ、町へ出よう』の復刻版 Photo by Kenichi Tsuboi

俳句、短歌、詩、小説、戯曲、舞踏、映画など、驚くほど多様な創作活動、さらに競馬評論やボクシング評論でも名を成した寺山修司(1935~83)の没後40年に関する催しが2024年も続いている。『書を捨てよ、町へ出よう』復刻版を読むと、驚愕の映画体験を思い出したし、元SMAPの香取慎吾が主演する「テラヤマキャバレー」という音楽劇も楽しみだ。(文中敬称略/コラムニスト 坪井賢一)

実にアヴァンギャルド!
『書を捨てよ、町へ出よう』復刻版に感激

 2023年も年の瀬、紀伊国屋書店新宿本店で物色していたところ、寺山修司(1935~83)の代表作が復刻されていることを知った。再編集された新刊や文庫版の出版ではない。初期の代表作がそっくり復刻されたのである。

 それは、寺山修司著『書を捨てよ、町へ出よう』(初版1967年2月、芳賀書店)で、2023年11月30日にトゥーヴァージンズが復刻出版した。筆者が購入したのは12月31日付の初版第2刷だった。

 巻末のクレジットには、当時の若いクリエーターの名前が並んでいる

 著者:寺山修司
 装幀・本文レイアウト・イラスト:横尾忠則(1936~)
 協力:及川正通(1939~)
 写真:吉岡康弘(1934~2002)
 企画・制作:矢牧一宏(1926~82)

 写真はその復刻版だが、表紙は横尾忠則のイラスト、本文中には横尾のほか、及川正通のイラストが挿入されている。全体のアートワークは横尾で、奇怪な写真や奇妙な肖像写真は吉岡康弘の作品だ。及川は、情報誌「ぴあ」の表紙イラストを長年にわたり描いていたので、記憶している読者は多いだろう。矢牧一宏は芳賀書店にも在籍した編集者である。

 筆者が初めて本書の存在を知り、店頭でめくって見たのは中学1年の春休みだった。買ってはいない。金がないというより、危ない匂いが充満していて怖かったのである。寺山はすでに「家出のすすめ」と題した評論が知られていて、テレビにもよく出ていた。「家出のすすめ」をどこで読んだのか覚えていないが、「家出評論家」としても知られていた。

 実にアブナイ人物で、本書『書を捨てよ、町へ出よう』を読んだのは高校生になってからだ。ようやく購入する勇気が出て読んだ。しかし、「書を捨てよ、町へ出よう」とはどこにも書いてない。全体を構成するのは、寺山作品のダイジェストだった。そして真ん中には、別刷りで自伝が掲載されている。その自伝を読んで、高校生で優れた俳句を多数発表し、後に短歌に転じてさらに有名になったことを知った。

 本書の冒頭は「青年よ大尻を抱け」と題した、後年の椎名誠のような笑えるスーパーエッセイで始まる。続いて「不良人間入門」の章で、「家出入門」といったアブナイ文章とともに「モダンジャズ入門」「歌謡曲人間入門」「アソビ学入門」といった一見まじめで、実はふざけた遊戯の文章が並ぶ。お得意の競馬やボクシングについての文章もあり、遊園地のような本だ。

 高校生時の筆者は、寺山から「書を捨てよ、町へ出よう」の含意をくみ取り、何らかの教訓を得ようとした。ところが、そういう本では全くなく、あちこちへ飛び、脱線し、越境し、枠を壊しながら読者の既成概念をぶっ壊すような本だった。

 やがて人に貸したのか紛失したのか、この本はどこかに消えてしまった。その後、70年代に角川文庫からも出版されたが、前衛アーティストのチームが全力で遊んで制作した書物としての面白さは全くなかったので、買っていない。その原本が57年ぶりによみがえり、店頭を飾っているのだ。