飲んで気持ちよくなるだけでなく
「人々をつなぐもの」

 すでにアメリカでは、ウェルビーイングビジネスに参入しているお酒のブランドがあります。
それは、アンバイザー・ブッシュ社が生産・販売するビール、「バドワイザー」です。

 現在のバドワイザーは、「のどごしが……」「キレが……」「うまさが……」といったビールのおいしさを伝えるアプローチだけをしている訳ではありません。バドワイザーが掲げているパーパスは、「人々を集めるために、われわれは存在する(We exist to bring people together)」。

 つまり、バドワイザーは、ビールを、おいしさを味わうものや飲んで気持ちよくなるためのものだけではなく、人と人の関係性をつくる、人々をつなぐためのものという顧客との関係をリデザインするアプローチをしています。

 そのためバドワイザーは、コロナ禍の自粛期間の頃から、次のような取り組みを続けています。

・休業中のジムトレーナーによるエクササイズ動画
・休業中のシェフによる料理スクール動画の配信
・オンライン飲み会の企画
・バー・レストランの再開支援

 これらは、人々をつなぐためのさまざまな取り組みのごく一部です。こうした活動は、短期的にはバドワイザーの売り上げには直結しないかもしれませんが、バドワイザーが訴えるビールの果たす本質的な役割は、人々が集まり、交流することでウェルビーイングに貢献するということです。

 日本のビールメーカーでも、「オキシトシン的幸福」を通して売り上げを伸ばしている企業があります。それは、「よなよなエール」をはじめ、「インドの青鬼」「水曜日のネコ」などの製品を展開するクラフトビール最大手のヤッホーブルーイングです。

 ヤッホーブルーイングの販売戦略のカギは、リピーターを増やすことにあったといえます。例えば、同社はビールを飲む生活者のことを「ファン」と呼びます。そのビールファンが一堂に会し、さまざまな切り口でビールを楽しむ「超宴」というイベントを開催(コロナ禍においてはオンラインで開催)し、ファン同士の交流を促進しています。

 他にも、ビールに合うおつまみの作り方や、オンラインラジオなどを発信し、クラフトビールが持つ味を楽しむことに加えて、人との交流から生まれる幸福感を訴求しています。

 これまでお酒メーカーは、過剰摂取による体への影響からお酒という製品でヘルスケアビジネスに参入するのはハードルがありました。しかし、顧客との関係性の再定義へと視点を変えると、ウェルビーイングビジネスに参入することが可能になるのです。

 このように、新しい顧客の幸福をどう実現するかという視点から商品の価値を見直す「関係性のリデザイン」によって新しい価値が生まれれば、新しい顧客が生まれ 新しい市場が生まれます。ウェルビーイングの視点で、商品を見つめ直すことで今までにない生活者との接点が生まれるのです。

 これからは、さまざまな産業分野でウェルビーイングビジネスが発展していくのは間違いないと私は考えています。次回は私も関わった、関係のリデザインのアプローチでゼロから2000億円の市場を創った事例をお話ししたいと思います。

(インテグレート代表取締役CEO 藤田康人)