「人と深くつながる」ことで幸せを感じる、富や名声では味わえない時間お酒を飲みながらのコミュニケーションで、より深くつながれる (写真はイメージです)Photo:PIXTA

「ウェルビーイング」は、1948年の世界保険機関(WHO)設立の際に考案された憲章で、初めて使われた言葉。「幸福で肉体的、精神的、社会的全てにおいて満たされた状態」をいいます。新しい幸せの形として用いられ、最近さまざまな場面で耳にすることが多くなりました。連載『ウェルビーイングの新潮流』では、ウェルビーイングによって私たちの暮らしがどのように豊かになるのか、解説していきます。

アメリカのウェルネス産業で見る
ウェルビーイングの市場規模

 今回は、ウェルビーイングのビジネス領域においての国内外の現状と、これからの可能性についてお話します。

 昨今のウェルビーイングの市場規模を推測する参考として、アメリカのウェルネス産業で見てみると、ウェルネスツーリズム領域やフィジカルアクティビティ、予防医療・公衆衛生関連などで、2020年時点で4.4兆ドル、日本円にすると約640兆円という調査があります。加えて、睡眠、マインドフルネス、瞑想(めいそう)などの領域を含めると市場規模は更に大きくなるでしょう。

 さらに既存のヘルスケアの延長にあるウェルネス産業という枠組みを超えてエンターテインメント産業や、家族や友人との大切な時間に満足感を与えてくれる外食産業などもウェルビーイングビジネスの領域に入れるとすると、アメリカでの市場は750兆円規模にも広がるといわれています。

 一方で、同様の枠組みで考えると、日本におけるウェルビーイングビジネスに関する市場規模の推定としては、12.5兆円程度の規模だといわれています。

 アメリカでウェルビーイングビジネスが急成長した理由の一つとして、日本とは異なる健康保険制度が挙げられます。

 日本は「国民皆保険」が制度として確立している国です。保険証があれば、誰でも保険医療を受けることができます。

 一方、アメリカは民間保険中心の国です。公的医療保険としてあるのは、高齢者や障害者を対象とした「メディケア」と、低所得者向けの「メディケイド」の二つ。それ以外の人たちは、企業が提供する民間の医療保険に加入しているケースが一般的です。

 従業員200人以上の企業には医療保険の提供が義務付けられているため、アメリカ国民の約7割が民間保険に加入していますが、どんな内容の保険になるかは、勤めている企業次第で、医療保険の内容が、働く人たちの会社選びの重要な選択肢の一つになっています。

 しかし、手厚い内容の保険になればなるほど、当然ながら企業が負担する保険料は大きくなります。このような「民間保険を中心に成り立っている医療制度」が、実はアメリカでウェルビーイングビジネスが先行する大きな理由の一つになっているのです。