「地頭」って結局ナニ?中学受験で3姉妹に伴走した父親の答え「中学までは全部…」『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第53回は、3姉妹の中学受験に伴走した高井さん独自の教育メソッドを大公開。投資でも重要な「型」について考える。

ひたすら写経「日経くん」をインストール

 桂蔭学園・女子投資部の町田倫子と久保田さくらは初めての保有株の大きな値下がりにショックを受ける。投資経験が比較的長い道塾学園創業家の令嬢・藤田美雪は、ふたりの失敗の原因は他人の意見に乗っかり、自分の「型」を守れなかったことだと説く。

「自分の考えなんていらない」「子供の個性を見つけて伸ばせなんて言うけど あんなの嘘よ」美雪の言葉に反発を覚える方は少なくないだろう。だが、「型」が何より大事という主張に私は強く同意する。

 昨夏に新聞社を辞めるまでの28年間、それなりの数の後進の指導にあたった。私の常套句は「早く『日経くん』をインストールしろ」だった。新聞記事はファクトを正確かつコンパクトに伝える、無味乾燥な文章を用いる。「日経くん」はその独特な無個性な文体を指す。

 インストールの近道は、昔ながらの「写経」だ。お手本になる記事を見つけて、ひたすら写す。短い記事が真似できるようになったら、少し長いものに移る。コツコツやれば半年で基本的な記事は書けるようになる。

 数年かければ、どんな記事でもほぼそのまま紙面に載るようになる。「日経くん」のインストール完了だ。その先に、コラムなどで個性を出す余地が出てくる。なお「日経ちゃん」じゃないのは、日本の新聞がうっすらとおっさん属性を帯びているからで他意はない。

高井家の「お父さん問題」とは?

漫画インベスターZ 7巻P7『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

 この「型」の考え方は我が子の教育にも取り入れた。三姉妹は全員、某都立中高一貫校のお世話になったのだが、6年生の時にそろって高井家名物「お父さん問題」を受講した。様々なテーマについて小論文を書き、私が添削するプログラムだ。

「お父さん問題」の最大の狙いは大人の文章の「型」を身に着けること。お題は米国の銃規制からボードゲーム「モノポリー」の戦略まで幅広く、いずれも「正解」はない。ネット検索なども使って自由に自分の考えを書く。

 添削は文体と構成に絞る。見解を論理的に展開できているか、話し言葉など「普通の文章」から外れていないかを見て、修正すべき箇所を示す。何回かの書き直しの後、最後に私がお手本を書いてみせる。

 ほとんどの場合、初稿の方が文章としては魅力的だ。「子どもの作文」らしい味がある。それを徹底的に大人の文章にしてしまう。個性を伸ばすどころか、消してしまうのだ。半年もあればこれの繰り返しで型が身につく。

 ひとたび型をインストールすると、書く力だけでなく読む力が底上げされる。大人の文章のロジックが内面化されると、書き手の意図が見えるようになり、読解力が上がるのだ。「地頭」は多様であいまいな概念だが、私は「母語を操作して論理的に思考する力」と考えている。「中学までは全部『国語』だ」が私の口癖だ。

 型があるから、型を破れる。型がなければただの「カタ無し」だ。本当の意味での個性は「型のむこう側」にあるのだろうと私は考えている。

漫画インベスターZ 7巻P8『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク
漫画インベスターZ 7巻P9『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク