ユニクロの店舗Photo:winhorse/gettyimages

寒い季節の強い味方として、多くの人に親しまれているユニクロの「ヒートテック」。日本のみならず世界で展開され、2023年には累計販売数が15億枚を突破しました。一見シンプルなこのインナーウエアには、実は「ユニクロ」と「東レ」の共同開発の物語が隠れています。ヒートテックを皮切りに始まった両者のオープンイノベーション。その成功のポイントを、ユニクロのビジネスモデルから読み解きます。(グロービスAI経営教育研究所 所長/グロービス経営大学院 教員 鈴木健一)

15億枚売れた「ヒートテック」
ユニクロが東レと手を組んだワケ

 ヒートテックの開発の歴史は2000年にさかのぼります。当時、ユニクロは1998年から始まったフリースのブームがきっかけで絶好調。ユニクロを運営するファーストリテイリングの2000年8月期の売り上げは、対前年206%でした。

 NewsPicksによるとこの年の4月、ファーストリテイリングの柳井正社長は、「この先独自性のある商品を開発していくためには、技術・開発力のあるパートナーが絶対に必要だ」と、役員全員を連れて東レの前田勝之助会長(当時)を訪問しました。

 2人だけのトップ会談を経て、両社の協業がスタート。5月には東レ内にユニクロ専門部署「GO(グローバルオペレーション)推進室」が新設され、以後、ユニクロと東レの相互のアクセスポイントとして機能することになります。さらに、2006年にはユニクロと東レで戦略的パートナーシップ(中長期的・包括的な調達及び供給に関する合意書)が締結され、緊密な開発体制が実現しました。

 素材メーカーとの連携を強力に進める柳井氏の発想のベースには、ユニクロが採用しているSPA(製造小売り)というビジネスモデルが大きく影響しています。下図のバリューチェーンにあるように、伝統的なアパレルメーカーとは異なり、SPAでは企画から直営店舗での販売までをカバーしています。

図1
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 SPAの強みは、上流から下流まで垂直統合してコントロールすることで、顧客ニーズを的確に把握しつつ、生産量・在庫量などを調整し、効率化を図ることができるという点です。SPAを採用する多くのブランドは、ファストファッションという言葉で表現されるように、企画から販売までのサイクルを徹底的に高速化・短期化しています。これにより、実際の店舗での売れ筋を見極めた上で、最新の流行ファッションを量産し低価格で提供することができるのです。

 一方ユニクロは、LifeWearというコンセプトに象徴されるように、ベーシックなカジュアル商品に強みがあります。

 ベーシック商品では、流行や嗜好性に大きく左右されるデザイン面よりも、機能面が大きな差別化ポイントになります。だからこそユニクロは、ファストファッションを展開する多くのSPAは手を出さない「素材」の領域に、東レとタッグを組み挑戦したのです。