アメリカで急成長中
日本への本格進出はこれから

 日本ではまだ、目立った動きが見られないTemu。その理由は、同サービスの主戦場がアメリカにあるためだ。ブラックフライデーやクリスマスなどの大きな商機が追い風となり、シェアを急拡大している。先ほど触れた、Temuアプリのエンタメ性あふれる仕掛けが功を奏し、アプリの中を回遊し滞在する時間が長くなっていると考えられる。

「ECビジネスは、市場が大きいところに参入するのが原則です。消費者がお金を使って、市場が大きくて消費者がお金を使うところでないと、スケールメリットを生かせないからです。そうなると結局、市場はアメリカになります。あるいは、今後の成長が期待できる市場という意味合いで東南アジアに進出する中国企業も多いです。では日本はどうなのかというと、進出している50カ国の中でもアメリカほど市場規模は大きくない上、経済成長率も新興国のように高くないため、Temuにとってはあまり優先度は高くないでしょう。ただ、日本人の価値観も変わり、激安ECを受け入れる土壌が出来つつある中で、今後どこまで日本市場に力を入れるかは見どころですね。一方のSHEINは今、南米に投資しています。成長中の市場を開拓してくのか、激戦区で勝負するかは、その企業の戦略次第です」

 現在、Temuの流通取引総額(GMV)は、SHIENを猛追する勢いで伸びている。その一方で、収益面では苦戦しており赤字が続いているという。GMVが伸びても赤字が続いている理由は何か。

「越境ECは、外国で倉庫を造り物流網を整備しなくてはならないので、かなりコストがかかります。これだけ赤字が膨らんでいるのは、配送やマーケティング費用にお金がかかっているためです。倉庫まで造ってしまうと、赤字だからといって気軽に撤退できません。ECは、初期投資の大きなビジネスなんです。

 例えば、中国EC企業の二大巨頭としてアリババと肩を並べる京東(ジンドン)も、中国国内での物流システムの整備のために多額の投資をしたので、創業してから十数年は赤字でした。越境ECとなると、距離が遠いアメリカなどの国への輸送負担が大きくなります。現地で物流網を整備することで、物流コストを下げる意味合いもありますが、一番の目的は「速さ」の問題を解決することです。注文から商品の到着までに時間がかかると顧客満足度が下がるので、早く発送したいのです。そのため企業によっては、消費者に近い場所に倉庫を造ったり、ドローン配送を試みたりするのですが、その投資額がかなり大きくなります。

 現在Temuは約50カ国に展開していますが、今後、売り上げが見込めない国からは撤退していくでしょう」

 消費者にとってみれば、手軽に安くていい商品が買えれば、どこの国のECサイトであろうと大きな違いはなくなってきている。Temuが次に日本でどのような戦略をとるのか、注目だ。