ドラッグ・ラグの解消には、
小児用の開発義務づけが不可欠

 日本を世界有数の“ドラッグ・ラグ大国”にしている一番の理由は、日本独特の制度にあると言われている。医薬品が日本国内に出回るには、第1相から第3相まで、以下3段階の治験をクリアする必要がある。

◎第1相:少数の健康な人に薬を投与して行う安全性の確認
◎第2相:少数の患者に投与して、効き目や副作用を調べる
◎第3相:数百から数万人という大規模な患者を対象に、効能、忍容性、安全性、相互作用を評価する

 3段階とも新薬を開発した国で実施し、合格したらそのまま日本で販売できるようになればよさそうなものだが、日本で販売するには第3相に進む前に別途、日本人への初期治験にあたる第1相の追加調査をしなければならないのだ。「国内の環境で暮らす日本人への安全性を確認するため」と厚生労働省は説明して来たが、これは日本の独自ルールで他国ではほとんど求められない。「日本の常識は世界の非常識」とはよく言われるが、新薬の治験でも、非常識がまかり通ってきたのかもしれない。

 幸いこの独自ルールは昨年11月、原則廃止が決まった。成人向けの新薬のドラッグ・ラグは今後、解消に向かいそうだ。

 だが、松本氏は言う。

「確かに、治験の第1相をスキップできれば企業の負担は減るので敷居は下がるかもしれません。特に成人向けには承認されているのに小児では認められていなかった16剤に関しては、大きなメリットがあるでしょう。成人向けには承認されているということは、成人の用法用量はすでに認められているから、あとは小児の用法用量だけ。

 従来であれば、小児の用法用量を決めて第2相も第3相も日本で治験しなければなりませんでしたが、海外の用法用量をそのまま使っていいとなればハードルは下がります。でも市場規模が小さく、コストをかけても利益が出にくい小児がんの薬を、製薬会社は扱うのに躊躇します。大人のがん患者は年間100万人ですからどうしてもそちらに目が向いてしまうのは止むを得ないことかもしれません」

 欧米では2017年、分子標的薬などを成人向けに開発する場合には、小児向けも併せて開発することが義務付けられた。日本には同様の制度がない。