国立がん研究センターが始めた
子どもの命を救う臨床研究

 小児および「AYA」と呼ばれる若年世代のドラッグ・ラグ解消をめざし、今年1月、国立がん研究センターは、「患者申出療養制度」を利用して、小児やAYAのがん患者に、海外では承認されているものの、国内では適応外や未承認となっている治療薬を投与する臨床研究を始めたと発表した。予期せぬ副作用にも対応できるよう、医師主導臨床研究として実施するという。

 患者申出療養制度は、「未承認薬などを一早く使いたい。対象外になっているけれど治験を受けたい」といった患者の思いに応えるためにつくられた制度で、通常は全額自己負担となる未承認薬などによる治療を、公的医療保険が適用される診療と組みあわせて受けることができ、患者の金銭的負担が軽減される。

 必要とする患者に治療薬を迅速に届けるとともに、早期の国内承認を目指し、有効性を確かめる狙いもある。

 臨床研究では、遺伝子の変異に作用する分子標的薬などを対象に、小児がんへの安全性および有効性を評価する。具体的には、(1)グリベック錠100mg、(2)ヴォトリエント錠200mg、(3)ジャカビ錠5mg、10mg、(4)メキニスト錠0.5mg、 2mg、▽トラメチニブ ジメチルスルホキシド付加物経口液(未承認薬)、(5)テセントリク点滴静注840mg、1200mg―の5種9剤型で、ノバルティス(1~4)と中外製薬(5)から無償提供される。

 なお、対象薬剤は今後増やす方針で、薬の使用が病理学的に有効と診断されたり、変異を調べる「がん遺伝子パネル検査」で推奨されたりした0~29歳の患者が対象だ。

「グリベック錠は、がん発症の原因となる異常染色体が作り出すチロシンキナーゼをターゲットとした分子標的薬です。要はがんに増えるよう命令を出すところに蓋をする薬です。チロシンキナーゼが活性化している患者さんに投与すると、命令が入らなくなってがんが増えなくなる。対象疾患で一番有名なのは、慢性骨髄性白血病(CML)です」

 慢性骨髄白血病は、グリベックが登場するまでは、発症から4年以内に骨髄移植をしなければ、ほとんどの方が亡くなってしまう恐ろしい病気だったが、登場してからは9割の患者が治るようになっている。