米国で承認された抗がん剤40剤中
日本の小児が使えるのは16剤だけ

 ドラッグ・ラグとは、海外では承認され使われている新薬が、日本で承認されて使えるようになるまでの時間の差を指す。ドラッグ・ロスは海外で使用されている薬が日本では使えない事態を言う。厚生労働省によると、欧米で承認されながら日本で開発されていない医薬品のうち39品目は、国内に治療薬が存在しない疾患への薬だという。

 2009年~17年に世界で開発・承認された新薬が自国で承認されるまで、日本では54.1カ月と、韓国の28.2カ月と比較して2倍近くもの時間を要している。24年1月現在、20年時点で米国と欧州連合(EU)で承認された新薬の実に72%が未承認で、数字も上昇傾向にある。
とりわけ深刻なのが、小児がんの状況だ。

 23年3月時点では、米国で小児への使用が承認されている40の抗がん剤のうち、日本では6割にあたる24剤が未承認だった。しかも24剤中16剤は、成人向けには承認されているのに小児では認められていなかった。

薬で救えるはずの命が失われる小児がんの過酷な現状、日本の非常識ルールが廃止されても残る課題松本公一(まつもと きみかず)
国立成育医療研究センター 小児がんセンター長/小児がんセンター 長期フォローアップ科 診療部長(併任)

「たとえば、ダブラフェニブ(タフィンラー)という薬は、BRAFという特定の遺伝子の変異によって起きるがんを狙い撃ちする『分子標的薬』の1つで、低悪性度神経膠腫(グリオーマ)と呼ばれる小児の脳腫瘍には劇的な効果を示したという報告がされていました。欧米では普通に使われており、日本でも成人の皮膚がんと肺がんに対しては承認されていましたが、小児がんへの使用は認められていなかったため、薬を使えないまま亡くなったお子さんをたくさん診てきました。昨年11月に、MEK阻害剤(トラメチニブ)との併用でようやく小児がんへの使用が認められましたが、もっと早く認めてほしかった」

 松本氏は悔しそうに語る。

「ドラッグ・ラグ」というワードでネット検索していると、ダブラフェニブを待ちながら命を落とした子供たちの話がいくつも出てくる。効果が期待できる薬が存在し、他の国では使うことができるのに日本では使えない、本人や親の無念を思うとやりきれない。