「手段の時代」から「目的の時代」へ――はじまった目的工学の取り組みをさまざまな形で紹介していく。『利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのかーードラッカー、松下幸之助、稲盛和夫からサンデル、ユヌスまでが説く成功法則』の第1章「利益や売上げは『ビジネスの目的』ではありません」を、順次公開してきた。

第1章の最終回となる第6回では、われわれが提案している目的工学が、どのような思いと意図のもとに生み出されたのか、どんな役割を果たすものなのかをまとめる。

ドラッカーの思いを
さらに発展させたい

 われわれ目的工学研究所の結論はこうです。

 よい目的(パーパス)が、よい会社、よい組織、よい事業、よいリーダー、よい人間関係をつくる。その結果、よりよい未来が生まれてくる ― 。

 たいていの企業には、創業の理念、社是や社訓など、まさに社会的で、利他の心あふれる目的(パーパス)があるものです。ところが、多くの場合、いつの間にか空疎なお題目に変わってしまい、すっかり忘れ去られています。それが、だれもが共感するような目的(パーパス)であっても ― 。

 それはなぜでしょう。私たちには、そもそも利他性が宿っているのではなかったのでしょうか。したがって、困っている人を助けたり、社会に貢献したりすると、充足感が得られるのではなかったのでしょうか。

 せっかくのよい目的(パーパス)が空念仏(からねんぶつ)に終わってしまうのには、いくつか理由が考えられます。経営者から新入社員まで、みんな目の前の仕事や目標に追われている。

●何を言おうと、結局「会社は株主のもの」である。
●財政面での安定がなければ、何もできない。
●一人ひとりの小目的がバラバラである。
●社会に貢献し、かつ利益が出るようなビジネスモデルなど考えられない。

 ほかにもあるかもしれませんが、だいたいこんなところではないでしょうか。

 ドラッカーは、市場原理、資本家や企業家が支配する資本主義の限界を見て取る一方、「知識労働者(ナレッジ・ワーカー)」が台頭し、彼らが組織の枠にとらわれることなく自由自在にコラボレーションし、イノベーションや新しい価値を生み出すという未来を予言していました。そして、この新しい現実において、非営利組織こそ企業が学ぶべき手本であり、ここにマネジメントの本質があるという見解に達しました。

 ドラッカーは、ナチズムの台頭に危機を発していた若き20代の頃から、リーダーの社会的役割を問い続けてきたように思います。つまり、社会の安寧(あんねい)はリーダーの品格や力量に大きく左右されると考えていたのです。

 ですから、アメリカに亡命した後、政府と同じくらいの影響力を有する大企業の経営者たちに期待し、その啓蒙に努めてきました。もしかすると、「非営利組織に学ぶ」という教えは、そのための最後の手段だったのかもしれません。

 これからわれわれが紹介する「目的工学(パーパス・エンジニアリング)」は、このドラッカーの思いを発展させるものであり、また「社会と企業の共生」(われわれは「共進化」と呼んでいます)という日本企業の忘れ物を再発見するためのものでもあります。