この場合、その子を無視しようとすると、問題の解決をあきらめていることになりますよね。だからといって、「良いところだけを認めて、他のところは目をつぶろう」と考えると妥協になります。そこで、その子の個性をうまく生かして、むしろクラスの人気者にしてあげれば、クラス全体としていい雰囲気になるのではないでしょうか?

 おまけにその子も自分の居場所が見つかり、結果として遅刻もせずみんなに合わせるようになるかもしれません。これがまさにアウフヘーベンなのです。コツは「最終目標は何なのか」を考えることです。

 弁証法が目指すのは、とにかく物事の発展です。マイナスをプラスに変えるといってもいいかもしれません。そのためには、問題をプラスに転換する必要があるのです。

 ヘーゲルはそうやって社会や歴史が発展する様についても論じてきました。矛盾を乗り越えた時、人間はただ問題を解決するだけでなく、より発展した状況に至ることができるのです。これは困難を乗り越えた人だけに与えられるご褒美だといってもいいでしょう。

 とりわけ弁証法という問題を切り捨てない思考は、それが困難であるだけに、うまくいったときのご褒美は格別です。

 いわば「この問題があるからこそいい」という逆転の発想をするわけですから、そこからイノベーションが生まれるのもうなずけます。

「遊びたいけど親に怒られたくない」「食べたいけど太りたくない」「好きな髪型にしたいけど、校則を破りたくない」――。いろんな自分の矛盾を「正」と「反」に置き換えて、「合」を見つけてみましょう。

悩みへの答えの一例
目的はあくまで「チームで優勝すること」。自分がレギュラーになることも争いではなく、切磋琢磨と考えて受け入れよう。

部活の先輩はどうして
後輩に対して厳しいのか

中高生の悩み
入部先の上下関係が厳しく、いじわるをされるのではないかと悩んでしまいます。先輩にビビらないためには、どうしたらよいでしょうか。

 私にも昔、怖い先輩がいたので、気持ちはとてもよく分かりますよ。先輩に対して恐怖心を抱いて、苦悩している人は割と多いのではないでしょうか。

 そこで、苦悩について考えた哲学者を紹介したいと思います。オーストリア出身の思想家フランクルです。

 フランクルの思想を要約するとこんな感じになります。「人間はみなホモ・パティエンスなのです。だから人に対して過度に恐れる必要はありません」。

 聞きなれない言葉が出てきましたね。ホモ・パティエンスのホモは人間を示します。パティエンスは苦悩のことです。つまり、ホモ・パティエンスとは「人間は苦悩する存在である」ということです。