ところがこの「去りゆくあなた」とは、実は卒業生ではなかったというのである。

「去りゆくあなたは、好きだった彼女だったんだよね。愛する人との別れ、悲しい別れの思い出だったんです。故郷の福岡の大学に入って、そうだなあ4回ぐらい恋したかなあ?

 好きになった女性に天神(福岡博多の繁華街)でしつこく迫ったら、『大きい声ば出すとよ』って言われて逃げられちゃってねえ(笑)。そうですそうです、その彼女こそ『去りゆくあなた』だったんですよ。あれは女にフラレたときの思い出だったんです」。

 実は詩よりも先に海援隊のメンバー、千葉和臣が作ったメロディーがあった。千葉曰く、「ラジオを聞いていたら、ジェームス・ディーンの映画音楽『エデンの東』が流れていて、「いいなあこの曲」って誘発されて、メロディーだけささっとかいておいたんです」。そこに若き日の悲しい恋の思い出が当てはまったというわけか。

「実は、金八の撮影が始まってたのに主題歌がまだできなくてね。そのときこの曲聞いて、『エデンの東』ねえ……、『暮れなずむ町の光と影の中。去りゆくあなたへ、贈る言葉』と、次の日には出来上がっていた」。

 発売翌年の「日本レコード大賞」では作詞賞受賞。「あの年は、作詞賞のことを『西條八十賞』と言う名称で、実にうれしかったものです」。

 西條八十は童謡第一号曲「かなりや」や、「母さんお肩をたたきましょう」など多くの童謡や抒情歌から「青い山脈」、美空ひばり、島倉千代子ら一連のスター歌手を生み出した名詩人である。

「僕はこの詩の中で、自分を褒めてあげたいと思うところは、『人は悲しみが多いほど、人には優しくできるのだから』という箇所ですね」。自分の過去のほろずっぱくて、ちょっと悲しい経験が、ペンを走らせた大きなご褒美でもあった。