今後、ロジックチップの不足でサムスンに追い越されるという事態もあり得なくはない。その意味で、日本に22/28ナノプロセスの半導体工場ができることは、供給の安全弁としてとても頼もしいということができる。すでにある需要に応えるための既存技術による製造という意味でJASMはローリスクであり、ラピダスの2ナノに比べるとローリターンということができよう。

ラピダスとJASMの双方を助成
日本政府に芽生えたビジネス視点

 経済産業省はハイリスク・ハイリターンのラピダスと、ローリスク・ローリターンのJASMの双方を援助している。バランスの良いポートフォリオで投資を行っていると言ってもよいだろう。特にこれまでの日本は技術大国であり、「最先端技術さえ磨いていればいつか消費者は振り向いてくれる」と信じて疑ってこなかった。

 そんな日本社会で、JASMのような既存技術に対して助成を行った経済産業省が、技術視点ではなく、ビジネス視点で意思決定を行ったであろうことは特筆に値する。

 企業は差異化のために技術を開発するが、売るのは技術そのものではなく、技術を応用した製品である。製品として需要があるかどうかを考え、必要な技術に投資をすることは当たり前であるが、技術信奉の強い日本では珍しいと言ってもよい。こうした意思決定ができることが重要だ。

 そもそもTSMCは高い技術力だけでなく、始めからビジネスの視点で技術開発を行うことを、リーダーで創業者のモーリス・チャン氏から徹底的に叩き込まれた企業だ。TSMCは、台湾政府系研究機関であるITRI(工業技術研究院)の研究プロジェクトからスピンオフした企業である。

 1980年代、先にITRIからスピンオフしたUMCがIDM(垂直統合型企業)として先に操業を開始し、台湾に半導体産業が根付き始めたときに、TSMCのVLSI(超大規模集積回路)開発プロジェクトが開始された。アメリカや日本という競合がひしめく国際的な半導体産業の中で、価格競争力を持つために大規模生産は欠かせない条件であったが、台湾内の半導体産業はいまだ発展途上で大規模生産に対応しておらず、需要としてはより小口な生産を求められてきた。