人口と経済成長は切っても切り離せない関係だ。日本は超少子高齢化社会をひた走り、労働者の減少で消費が低迷し、1人当たりの社会保障負担が増している。『人口は未来を語る』(NHK出版)が話題の英国の人口学者が「100年後の未来」を語る。(人口学者 ポール・モーランド 取材/国際ジャーナリスト 大野和基)

人口は「歴史の原動力」
今後100年で劇的に変化するのはどこ?

 私が15年ほど前、日本の経済セミナーに招待されたとき、皆さん、経済についてあれやこれやと述べているのに、Demography(人口動態、人口学)そのものについて真剣に考えている人は誰もいないと感じました。しかし最近になってようやく、日本も人口動態の重要性について気づき始めたと思います。人口動態を理解しなければ、特に80年代のバブル経済~その後の長い停滞に関する問題をひとかけらも理解できないですからね。

ポール・モーランドポール・モーランド 人口学者。オックスフォード大学セント・アントニーズ・カレッジの上級会員。オックスフォード大学で哲学・政治・経済の学士号、国際関係論の修士号を取得。ロンドン大学で博士号を取得。イギリス、ドイツの市民権を持つ。作家・放送作家として、現代および歴史的な世界の人口動向について執筆・講演を行うほか、フィナンシャル・タイムズ紙、サンデー・タイムズ紙、テレグラフ紙など多くの新聞や雑誌に寄稿。著書に『人口で語る世界史』(文藝春秋)などがある。ロンドン在住。

 前著『The Human Tide』(邦訳『人口で語る世界史』)で私が主張したのが、人口は「歴史の原動力」そのものだということです。大国の興亡、戦争の勃発、戦争の帰結、経済大国の盛衰、経済恐慌など、それら全ては人口動態を理解していなければ、的確に語ることはできません。

 歴史を振り返れば、日本は鎖国を解除して、欧米の技術を学び自分たちのものにしました。日本は「近代」を受け入れた最初の非ヨーロッパ国であることから、他のアジアの国と比べると、平均寿命が急激に延び、人口が急増しました。1905年の日露戦争でロシアに勝利したときから45年の第二次世界大戦で敗北するまでの間、日本が大国に向かっていたことは驚くべき人口増加を遂げていたことで説明が付きます。(※編集部:明治初頭の日本の人口は約3500万人だったのが右肩上がりで伸び、太平洋戦争時には約7000万人強で横ばいになるも終戦後また伸び続け、2008年に約1億2800万人の最大値を記録)

 そして、世界の現在と未来を見るために執筆したのが新作『Tomorrow’s People』(邦訳『人口は未来を語る』)です。人口動態にはパターンがあります。乳児死亡率の低下→人口急増→都市化→出生率の低下→人口減少→移民流入、というパターンです。本書は、人口動態の象徴的な「10の数字」を基に、今後の社会を読み解きます。