ゴールドマン・サックスなど外資系金融で実績を上げたのち、東北楽天ゴールデンイーグルス社長として「日本一」と「収益拡大」を達成。現在は、宮城県塩釜市の廻鮮寿司「塩釜港」の社長にして、日本企業成長支援ファンド「PROSPER」の代表として活躍中の立花陽三さん。初の著作である『リーダーは偉くない。』(ダイヤモンド社)では、ビジネス現場での「成功」と「失敗」を赤裸々に明かしつつ、「リーダーシップの秘密」をあますことなく書いていただきました。リーダーだからといって「格好」をつけるのではなく、自分の「欠点」や「弱点」を素直に受け入れて、それをメンバーに助けてもらう。つまり、「リーダーは偉くない」と認識することが、「強いチーム」をつくる出発点だ――。そんな「立花流リーダーシップ」に触れると、きっと勇気が湧いてくるはずです。

三流リーダーは「下位2割の社員」を入れ替えようとし、二流は「頑張れ」と寄り添う。では、一流は?写真はイメージです Photo: Adobe Stock

組織を成長させる「最大のエンジン」とは?

 すべての人に「能力」がある――。
 これは、いま現在の僕の確信です。

 もちろん、自分が経営する会社で、人材を採用するときには、自社に必要な「能力」をもつかどうか、自社の企業文化に適合する「人間性」を備えているかどうか、といった観点で慎重に人物を見極めますが、そのときにも「すべての人に『能力』がある」という前提に変化はありません。

 ましてや、一度採用した人物については、たとえ、なかなか仕事がうまくいかなかったとしても、よほど決定的な問題がない限り、「どうすれば、この人に『能力』を発揮してもらえるか?」という意識で向き合っているつもりです。リーダーがそのスタンスをぶれずに持ち続けることが、組織を成長させていく最も根源的なエンジンになるのではないかと思っているからです。

 別に綺麗事を言いたいわけではありません。
 というか、もともと僕は、こんなことを考えていなかったどころか、正反対と言ってもいい考え方をしていました。そして、正直に白状をすると、そういう間違った考え方をしていたことこそが、ゴールドマン・サックスでの実績を買われて転職したメリルリンチで、現場のメンバーから総スカンをくらうという「痛恨の失敗」(詳しくは、「東北楽天ゴールデンイーグルス元社長・立花陽三氏が明かす、『痛恨の大失敗』から学んだ“リーダーシップの秘密”」参照)をした本質的な理由だったのではないかと反省しているのです。

 では、僕はどういう考え方をしていたのか?
 組織論でよく使われる「2:6:2の法則」を軸にご説明しましょう。

 よく知られているとおり、「2:6:2の法則」とは、組織というものは、「優秀な成績を収める2割のメンバー」「普通の成績を収める6割のメンバー」「成績の悪い2割のメンバー」に分かれる傾向が強いというもの。そして、誤解を恐れずシンプルに言い切れば、かつての僕は、「下位2割」は入れ替えるべきだという考え方をしていたのです。

「下位2割は入れ替える」という考え方

 僕は、それが外資系金融の基本スタンスだと思い込んでいました。
 新卒でソロモン・ブラザーズに入社して以来、ゴールドマン・サックス、メリルリンチと外資系金融を渡り歩いてきましたが、そこで僕が自分にインプットしたのが、「『2:6:2』の『下位2割』は入れ替えるのが常識」という考え方だったのです。

 もちろん、この考え方には正しい一面もあります。
 というのは、外資系金融に勤めるということは、日本で言うところの「正社員」として雇用されるのとは異なり、終身雇用は保証されない代わりに、好成績を上げたら高額の報酬が支払われるということだからです。

 であれば、企業サイドに立てば、「下位2割」を入れ替える権利があるはずだし、そうすることに経営合理性もあると言えるでしょう。そして、それを受け入れたうえで、僕たちは外資系金融に入社しているわけですから、そこに問題はないと言ってよいのではないかと思います。

 だから、僕は、その考え方を疑いもなく受け入れ、メリルリンチに入ったときにも、「担当部署の業績を上げるためには、下位2割を入れ替える必要があるだろう」と考えていたのです。
 そこには、自分に対して「メリルリンチに入ったら、1年以内にリーダーとして結果を出さなければいけない」と勝手にプレッシャーをかけていたという側面もあったかもしれません。だからこそ、「下位2割を入れ替えるしかない」と思い詰めていたように思うのです。

 だけど、今となれば、それは間違いだったと思います。

三流リーダーは「下位2割の社員」を入れ替えようとし、二流は「頑張れ」と寄り添う。では、一流は?立花陽三(たちばな・ようぞう)
1971年東京都生まれ。小学生時代からラグビーをはじめ、成蹊高校在学中に高等学校日本代表候補選手に選ばれる。慶應義塾大学入学後、慶應ラグビー部で“猛練習”の洗礼を浴びる。大学卒業後、約18年間にわたりアメリカの投資銀行業界に身を置く。新卒でソロモン・ブラザーズ証券(現シティグループ証券)に入社。1999年に転職したゴールドマン・サックス証券で実績を上げ、マネージング・ディレクターになる。金融業界のみならず実業界にも人脈を広げる。特に、元ラグビー日本代表監督の故・宿澤広朗氏(三井住友銀行取締役専務執行役員)との親交を深める。その後、メリルリンチ日本証券(現BofA証券)に引き抜かれ、数十人の営業マンを統括するも、リーダーシップの難しさを痛感する。2012年、東北楽天ゴールデンイーグルス社長に就任。託された使命は「優勝」と「黒字化」。星野仙一監督をサポートして、2013年に球団初のリーグ優勝、日本シリーズ制覇を達成。また、球団創設時に98万人、就任時に117万人だった観客動員数を182万人に、売上も93億円から146億円に伸ばした。2017年には楽天ヴィッセル神戸社長も兼務することとなり、2020年に天皇杯JFA第99回全日本サッカー選手権大会で優勝した。2021年に楽天グループの全役職を退任したのち、宮城県塩釜市の廻鮮寿司「塩釜港」の創業者・鎌田秀也氏から相談を受け、同社社長に就任。すでに、仙台店、東京銀座店などをオープンし、今後さらに、世界に挑戦すべく準備を進めている。また、Plan・Do・Seeの野田豊加代表取締役と日本企業成長支援ファンド「PROSPER」を創設して、地方から日本を熱くすることにチャレンジしている。著書に『リーダーは偉くない。』(ダイヤモンド社)がある。