「経験」重視の総合型選抜、学びの機会の平等を担保できるか【池上彰・増田ユリヤ】

受験は裕福な家庭の子どもが有利?

増田 今年も受験シーズンが終わりました。近年は、国公立大学・私立大学共に総合型選抜(旧AO入試)の枠が拡大していますね。

池上 大学入試全体では、総合型選抜による入学者が15%程度まで増え、私立大だけでなく、国立大の8割が一部または全ての学部で導入しています。

 総合型選抜は「わずかな点差で合否が決まる、試験のみの一発勝負」だけで子どもの人生を左右していいのかという議論に端を発しています。その頃すでに米国では総合型選抜を実施し、ペーパーテストだけではないさまざまな観点から学生を評価して、多様な人材を入学させていた。「これだ!」と思って、1990年代に日本でも取り入れたのです。

増田 理想としては素晴らしいのですが、現在のように「どのような経験をし、自分をどううまくプレゼンするか」が合否判断の大きな要素となると、子どもの頃からさまざまな経験をしてきた学生の方が有利、となりかねません。

 個人差はありますが、経済的に豊かな家庭に生まれた子どもの方が、そうでない家庭の子どもよりも「豊かな経験」を積む機会を得やすいのも事実です。

池上 特に日本では、なんでも「傾向と対策」が練られてしまいますから、「総合型選抜で合格するためには、いろいろな経験をアピールした方がいい。子どもの頃から海外旅行や留学を経験して、そこから得た学びをアピールすると合格しやすい」という話になる。

 そうすると、幼少期からさまざまな経験ができる裕福な家庭の子どもが有利になってしまう。しかし学力だけで測っても、小さい頃から塾に通わせられる家庭の子どもが有利、ともいえます。

増田 「家庭環境を問わず多様な学生に入学の機会を」という当初の目的や理想から外れ、一定の傾向の学生で総合型選抜枠が埋まってしまうとなれば、本末転倒です。