そうです。「フツーの子供」なのです。そんな炭次郎が、家族や身近な人々のために自分を鼓舞して困難を乗り越えていく、そんな物語が人々の心を打ったのでしょう。

等身大かつ自然体の
「令和型ヒーロー」

 炭治郎には特別な才能はないけれども、周りの人々のために自分のできることをできる限りやると覚悟した上で、その優しさ、寛容さ、温かさを存分に振りまき、周囲の人々の心を動かしながら物語は進展していきます。

 凝り固まった価値観や、自分の願いを優先する自己中心的な行動は1ミリも見られません。まさに最新の現代型ヒーロー、「令和型ヒーロー」の象徴と言えます。

 これまでの日本社会を振り返ってみると、戦後に高度経済成長期を迎えた日本では、頑張れば出世やより良い暮らしが待っているという未来像を人々は胸に描き、ひたすら満たされるための努力を続けてきました。「24時間戦えますか」という、今なら絶対に批判の的になりそうなテレビCMのキャッチコピーが流れていたのは、バブルの残り香のする、30年前までの話です。

 戦後の物資の足りていない時代に育った世代は、夏も冬も快適に過ごせるエアコンが欲しい。移動の足となる車が手に入ると、さらに格好も付けられる高級車が欲しい等々、次々と欲しいものがある、満たされていない世代とも言えました。

 しかしバブル後に生まれた今の10~20代の若者たちは、生まれた時からエアコンはもちろんのこと、食うにも寝るにも困らず、満たされたまま育ったわけです。

 それのみならず、バブル崩壊を経験した両親たちの姿から、出世を目指しても上の役職が埋まっていてポストがなく、頑張っても努力した分の見返りがあるわけではないことを知っています。

 Z世代に対しては、「頑張れば、これだけ素晴らしい未来が待っている!」「良い車も買えるし、家も買える!」「夜の店で豪遊することも可能だ!」といったアジテーションは全く通じません。自分を犠牲にしてまで頑張らねばならない理由が理解されないからです。