民間予測は1%以上見誤る
賃上げの原動力は何か

 23年春闘の結果は大方の予想に反する高い賃上げ率だった。30年ぶりの高さ故か、23年春闘の結果が確定した昨年夏の時点でも、高い賃上げは続かない、24年春闘は息切れするだろうと、持続性を疑問視する見方が大勢だった。

 労使交渉が佳境に入り、幾つかの企業が先行して高い賃上げの意向を既に表明していた24年1月時点での民間予測は3.85%だったので(日本経済研究センターの「ESPフォーキャスト調査」)、予測誤差は1%ポイントを超えている。今では満額回答のニュースが流れても驚くことはないが、実はふたを開けるまではほとんど誰も予想できていなかった。

 人々は将来を予想するときに、過去に形成された「当たり前」に縛られる。予測機関のエコノミストたちも例外ではなく、過去の「当たり前」を前提として予測したのだろう。

 しかし、世の中の全員がこれまでの「当たり前」を前提に行動していたとすれば、高い賃上げはそもそも起きなかったはずだ。どこかに「当たり前」を無視して行動する人の存在がなければ説明できない。

 好循環は経済政策の成果なのかという質問を海外の投資家から受けることが多い。長きにわたった金融緩和政策の後で好循環が起きたので、そこに因果があるとみえるのだろう。

 もちろん政府と日銀は好循環の実現に向けてそれぞれできる手を打ってきた。そのことを否定するつもりはないが、金融緩和政策自体が好循環の原動力とはいえないだろう。

 では何が原動力だったのか。