2×2=5(ににんがご)の精神で、時代を超えた価値を創造

 グーで勝ったら「グ、リ、コ」で3歩、チョキかパーで勝ったら「チ、ヨ、コ、レ、イ、ト」「パ、イ、ナ、ツ、プ、ル」で6歩──。子どもの頃に「じゃんけんグリコ」で遊んだ覚えのある人は多いでしょう。「グリコ」という固有名詞が、これほど遊びの中に浸透していることは、私には偶然だとは思えません。

 江崎グリコの創業者、江崎利一が「栄養菓子グリコ」の販売を始めたのは今から100年以上前の大正時代。発売当初から、グリコのおもちゃのルーツともいえる「絵カード」をキャラメルと一緒に封入し、「おまけとしておもちゃを付けて販売する」という斬新なスタイルを編み出しています。「子どもたちにとって、食べることと遊ぶことは二大天職」と語った江崎利一の、お菓子という商品を通じて「食べる」と「遊ぶ」を融合しようという強い思いが伝わってきます。グリコといえば「おもちゃ」ですが、実はただの販促物ではありません。子どもたちの心身を育む豊かな体験を創造する大きなチャレンジだったのです。

 また、江崎利一が大事にしていた経営哲学に「2×2=5(ににんがご)」というものがあります。「2×2=4(ににんがし)」は当たり前。関係する全ての人の創意工夫で5や6にしてこそ価値があるというのです。これは現代風に言えば価値共創です。これを体現する取り組みに「グリコワゴン」があります。

 グリコワゴンとは、お菓子を満載した赤いワゴン車で全国を巡り、子どもたちに「お菓子を通して笑顔を届ける」取り組みです。10年のスタート以来、日本各地を巡り、災害被災地を訪問するなどの活動を続けてきました。そして23年3月、デザインを一新した2代目グリコワゴンは、なんと本田技研工業との異色のコラボから誕生しました。ホンダのレーシングチームで活躍するドライバーの佐藤琢磨選手をグリコもサポートしていることから生まれたご縁です。

 車のデザインは、グリコとホンダのデザイナーが力を合わせ、全国の子どもたちから公募したアイデアを融合して形にしていきました。「自動車」と「お菓子」という領域の違いはありますが、対話が深まるにつれて、ホンダ創業者・本田宗一郎氏の「技術を通じて人の役に立ちたい」という思いと、グリコ創業者・江崎利一の「食品を通じて国民の体位向上に貢献したい」という思いが重なり、時代や環境が変わっても変わることのない本質を見つめ直すまたとない機会となりました。

グリコがお菓子とともに創造してきた「体験」の力

 未来が混沌としたVUCAの時代といわれますが、私は、「想像する力」さえあれば、未来は創造できると信じています。そのために不可欠なのは、先ほど示した「We」の発想です。個人の「想い」は「妄想」や「空想」にすぎませんが、人と人との対話の先には明確な像が結ばれて「想像」となり、そこから「創造」のエネルギーが生まれてくるのです。

 冒頭で例に挙げたポッキーが、発売以来約60年間の長きにわたってCXを向上し続けられたのも、「コミュニケーション」という普遍的な価値に、時代ごとの「We」の思いを掛け合わせてきたからこそ。これからも「守るべきこと」と「変えるべきこと」をバランスよく融合させながら、グリコのパーパスである「すこやかな毎日、ゆたかな人生」につながる体験をデザインし、タイムレスにCXを向上させ続けたいと考えています。

公益財団法人日本インダストリアルデザイン協会(JIDA) https://www.jida.or.jp/
プロフェッショナルなインダストリアルデザインに関する唯一の全国組織。「調査・研究」「セミナー」「体験活動」「資格付与」「ミュージアム」「交流」という6つの事業を通して、プロフェッショナルな能力の向上とインダストリアルデザインの深化充実に貢献しています。