コロナ禍になって増えた「ある自殺志願者」、有名スポットの地元牧師が明かす写真はイメージです Photo:PIXTA

和歌山県の南紀白浜温泉郷は、名湯として名高く、毎年多くの観光客を引き付けている。一方、この地の「三段壁」(海岸にそそり立つ高さ50メートルの段壁)は、多くの自殺志願者を引き寄せてもいる。彼らに声をかけて思いとどまらせる「ゲートキーパー」を長らく務める、藤藪庸一牧師に話を聞いた。本稿は波名城翔『自殺者を減らす! ゲートキーパーとしての生き方』(新評論)の一部を抜粋・編集したものです。

飛び込む前に看板を見て
電話をかけてきてほしい

筆者 三段壁における自殺予防の取り組みについて教えてください。

藤藪庸一 1979年(*注1)からずっと、三段壁に電話を設置し、立て看板を立てて、そこからかかってくる電話に対応するという「いのちの電話」をやっています。

筆者 地元の人から、三段壁における電話の表示場所が変わったと聞いたんですが。

藤藪 看板ですね。2006年から、三段壁では自殺対策に行政が本腰を入れはじめました。自殺対策基本法とかができて、その過程のなかで三段壁のイメージチェンジを図っていくという白浜町の方向性もあります。僕らは、なんというか、白浜町の方向性に異を唱える気は全然ないので。町は今、「恋人岬」として三段壁を宣伝しています。そこにうちの看板があるとギャップがすごすぎて、行政から「看板を移動してもらえないか」という話が来ました。

 僕は「いいですよ」と答えました。それで、入り口、中程にある公衆電話の横、三段壁の両サイド、それから真ん中あたり、遊歩道のところに看板を5つ設置しています。これまで一番飛び込む場所、本当にそういう行為に及ぶ人が多かった絶壁のところにあった看板は移動しています。

昭和初期からすでに自殺の
イメージがついていた

筆者 なぜ、三段壁に自殺志願者が来るのでしょうか?

藤藪 イメージがついてしまっているんでしょう。新聞記事とか、三段壁にある『口紅の碑』(*注2)が理由でしょう。昭和の初めころから、そういう場所として認識されていたと思います。やはり、地元の方が多かったと思います。そこから、周りへ広がっていったということです。ご存じのように、ここは観光地なんです。とくに関西地区から訪れる人が多いですね。もちろん、東京からも来られます。観光客として来られた方は、やはり三段壁を見ますし、語り部さんというか、観光案内をされてる方も過去の事件を例に挙げて案内をされていました。そういう時代があったんです。

 私は1999年に牧師を完全に引き継いだんですが、その時点ではもう充分有名になっていましたね。僕らが活動する前は、本当にすごい数の方々が年間に亡くなっていて。僕らが活動をはじめて40年になりますが、毎年10人前後ですから、ずいぶん減っているように思います。

編集部注
注1:白浜バプテストキリスト教会の前任・江見太郎牧師による
注2:1950年、若い男女が、愛を誓う句を口紅で岩に書きつけて心中を遂げた