3月末から4月はじめにかけて、中国の新疆ウイグル自治区を旅した。いずれそれについて書いてみたいと思っているが、その前に、この数年で中国の旅が大きく変わったことを述べておきたい。

相互主義の原則に基づいて、日本から中国への短期滞在でもビザが必要になった

 コロナ禍を挟んでのもっとも大きな変化は、中国に行くには、短期滞在でも観光ビザの取得が必要になったことだ。それ以前は、最長14日間の滞在まではビザ免除で入国できたが、コロナの感染が拡大した2020年以降、中国政府はすべての入国者にビザを要求するようになった。検疫対策としてこの措置は当然だが、困惑するのは、感染がおさまってもビザ免除が再開されないことだ。

 この事態については、中国側のアカウンタビリティ(説明責任)として理解できるだろう。それまで中国人が訪日する場合は短期滞在でもビザが必要とされる一方で、日本人はビザ免除で中国に入国できた。考えてみれば不公平だが、わざわざこのことを取り上げて政治問題にするメリットはなにもなかった。

 ところがいったんビザ免除を廃止してしまうと、それを再開するにあたっては、中国国民に対する「大義名分」が必要になる。習近平政権は“独裁”といわれているが、ネット世論を過剰なほど気にしている。「中国人が日本に行くのにビザが必要なのに、なぜ日本人が中国に来るのにビザは不要なのか」との声があがったとき、この“大衆の声”に共産党はうまくこたえることができない。そこで、相互主義の原則に基づいて、日本にも同じ待遇を求めたのだろう。

コロナ禍を経て大きく変化した、中国旅行。ビザの申請に始まり、VPNやQRコード決済対策など知っておくべき事前準備とは?Photo:aoo3771 / PIXTA(ピクスタ)

 中国からの観光客にビザを免除することについては、自民党議員の一部が、犯罪が増えることを理由に反対しているという。だがデータを見るかぎり、来日外国人の検挙件数は2003年から08年をピークに減少しており、国籍別に見てもっとも検挙者が多いのはベトナム人(その背景には技能実習制度の問題がある)で、中国人観光客にビザを免除すると犯罪が増えるという根拠は不明だ。「ビザは相互主義が原則」という中国の主張は正論で、「中国人は犯罪者が多い」などという差別的な主張で反論しようとしても納得するわけがない。

 このように中国側にもじゅうぶんな理由があるのだから、ビザについて文句をいっても仕方がない。とはいえ、それなら簡単に観光ビザを取得できるようにすればいいと思うのだが、現実には杓子定規な官僚主義によってものすごく面倒なことになっている。

 ビザは郵送での申請が不可で、東京・大阪・名古屋のビザ申請センターか、それ以外は各地の総領事館に本人が出向かなくてはならない(代理店に依頼する方法もあるようだが、今回は個人で申請した)。東京のビザセンターは江東区有明の東京ビッグサイトに近いビルのなかにある。

 申請にあたってはオンラインでビザ申請フォームに入力し、そのうえで必要書類を窓口に提出、簡単な面接を受けたあと、3営業日後にビザを添付したパスポートを受領して料金(7250円)を支払う。ただし受領は代理でもよく、グループで申請した場合は1人が受け取りにいけばいい。とはいえ留学や仕事ならともかく、短期の観光のために地方からわざわざ(ビザの申し込みと受け取りで)2回も東京まで出てくるのは大変だろう。

 私がビザの申請をしたのは1月下旬だが、すくなくともその日は思ったより申請者の数が少なかった(50~60人くらい)。それでも申請書を提出し、窓口に呼ばれて面接を受け、パスポートを預けて引換証をもらうまでに2時間ほどかかった。だが問題は、その前の準備段階にある。

中国のビザを取得するための申請者の負担はかなり大きい

 中国のビザを取得するためのオンライン申請フォームには、職業や家族状況(結婚しているかどうか)などだけでなく、父親、母親、子どもの名前と生年月日、最終学歴と出身大学・専攻など、かなり詳細に個人情報を記載しなければならない。就労や留学などすべてのビザ申請の共通フォームだからなのだろうが、たんなる観光旅行でなぜこんなことまで書かされるのか、抵抗があるひともいるだろう。

 だが、それよりも困ったのが技術的な問題だ。顔写真をオンラインフォームに読み込ませるとき、背景を白にしなければならないという基準が厳格で、白い壁を背景にスマホで撮ったくらいでははねられてしまう。けっきょく、フォトショップで試行錯誤しながら加工することになった。

 さらに不思議なことに、申請書に顔写真が入っているにもかかわらず、それとは別に4.8×3.3センチメートルの証明写真が必要になる。私は印画紙出力できるプリンタのある知人に頼んだが、そうでなければコンビニでプリントするか、ビザ申請センターにある証明写真機を使うことになる。

 さらに面倒なのは、観光ビザでは往復の航空券や滞在中のすべてのホテルの予約票(手配確認書)を用意しなければならないことだ。ビザ申請センターの窓口でも、書類チェックで「この日に宿泊するホテルの予約票がない」といわれているひとがいた。

 この手順だと、旅程を確定してホテルを予約したあとでビザを申請することになるが、新疆は政治的に微妙な地域なので、窓口でなにかいわれるのではないかとの懸念があった。もっとも避けたいのは、出版関係の仕事であることを理由に、「旅行するのはかまわないが、それについては書かない」という一筆をとられることだ(私の知人で、実際にこのようなケースがあった)。

 提出した旅程どおりに行動しなければならない規則があるわけではなさそうなので、上海で適当なホテルを予約し、ビザ取得後にキャンセルすることも考えたが、これも万が一、トラブルになったときにさらに面倒なことになりそうだ。そこで、中国の知人に頼んで招聘状を出してもらうことにした。これなら旅程を証明する書類なしに、発行日から3カ月以内の入国で30日滞在できるビザが取得できる(招聘状を出してくれた知人のところには、入管から確認の電話がかかってきたという)。

 窓口では、私が職業を「Editor(編集者)」としたからだろうが、具体的にどのような仕事なのか細かく聞かれた。年金を受給できる年齢になったので、「Retired(退職者)」としておいたほうがよかったかもしれない。

 ビザ申請フォームには連絡先を記載する欄があり、仕事場の電話番号を書いたのだが、窓口のスタッフから、「緊急の連絡先は携帯でいいですか?」といわれた。パスポートを預かったあとで、確認しなければならないことがあったときに備えて、携帯のほうが便利だということらしい。

 これはスタッフの気配りなのだろうが、よく考えると、申請フォームのどこにも私の携帯番号はない。おそらく、これまで中国に行ったときに入国審査の書類に書いた携帯番号がパスポート番号と紐づけられているのだろうが、ちょっと驚いた。

 スタッフはみんな親切で、できるだけ円滑にビザを発行しようと努力しているようだったが、正直、申請者の負担はかなり大きい。その結果(当然だが)、日本から中国への観光客は激減している。

 報道によればこのことは中国側も認識していて、ビザ免除の再開も検討しているというが、日本側になんらかの譲歩がないと面子が立たない(説明責任が果たせない)ので、しばらくはこの状態が続くのではないだろうか。