昨年秋、日本向けにKindleストアのサービスをAmazonが初めて以来、電子書籍の普及が進んでいる。とはいえ、需要としては、まだまだ紙の書籍のほうが優勢なのが現状だ。
製本・印刷などの初期コストがかさみ、在庫を抱えるリスクもあるのが、紙の書籍。それゆえに個人では簡単には手が出せない状態だった。ところが、「プリント・オン・デマンド(POD)」と呼ばれる手法の本格化で、様相は大きく変わりつつある。
PODとは、注文がある度に一冊ずつ印刷する受注生産方式のスタイルである。版元は在庫を抱えるリスクがなく、絶版もない。三省堂などの書店チェーンも、このPODを導入しているが、AmazonもKindleストアと同時期にこのサービスを始めているのをご存じだろうか。
AmazonのPODプログラムは、Amazon側が書籍データを保管し、注文があった時点で印刷し、発送するフローになっている。米国のAmazonでは、PODは個人でも利用可能だが、日本では、まだ出版社に限定されている。
そういう事情を踏まえ、個人ベースで、AmazonPODを活用し書籍を販売できるウェブサービスが登場した。「MyISBN」である。通常、紙の書籍を流通させるには、ISBN(国際標準図書番号)が必須だが、MyISBNでは、このISBNの取得作業も含めて、出版に必要な作業を行ってくれる。いわば“POD専門のインディーズ出版社”である。
依頼者が用意するのは、PDFの書籍データのみ。オンライン上で入稿すれば、そこから先の、Amazonへの事務手続きなど書籍販売に必要な作業は、すべてMyISBNが行う。
3月25日に正式リリースされ、第1弾の書籍がAmazonで販売されている。すでに100件以上の依頼があり、電子データの内容確認を始めとするAmazon側の審査を待っている状態だという(4月7日現在)。
「PODに適しているのは、ITや法律など、常に情報が新しくなり、数ヵ月単位で細かく変更を行う必要がある書籍や、数千部から数万部の販売見込みがたたない書籍です。PODを使えば、電子書籍と同じ速度で紙の書籍も更新し続けることができるため、常に最新情報を読者に届けることができるようになります」(デザインエッグ株式会社佐田幸宏氏)
オンデマンド印刷は、もともと少部数の専門領域の出版物や、絶版になった本を延命させるためのシステムとして開発された技術。MyISBNでも、現段階で最も依頼の多い出版物は、大学の教科書だという。理系のテキストは、法規や技術が年々変わっていくため、すぐに記載内容が古くなってしまう。常に加筆・修正が発生するものだ。PODでは、データの変更が容易に行えるため、書籍を更新し続けることができる。
「オンデマンド印刷によって出版コストの多くを“変動費”にすることができるようになります。入稿時の原稿サイズ確認を始め、チェックシステムを自動化しているため、金銭的コストや人的コストを最小限に抑えることが可能となりました。今まで書籍を出版できなかった人たちが出版する。そのためのインディーズレーベルのような役割を目標としています」(同氏)
電子時代の到来で、データを一つ作成すれば、それを電子書籍にするのも、PODを活用して紙の本にするのも比較的容易にできる時代になった。作業が可能ならば、紙と電子両方あったほうが、より広範な読者に届くのは確かだ。
取次を通して一般書店に流すという従来の出版流通に代わり、電子書籍やオンデマンド印刷を活用するセルフパブリッシング時代が到来しつつある現在、コンテンツを持つ方は、PODで最初の一歩を踏み出すことを考えてみてはいかがだろうか。
(吉田由紀子/5時から作家塾(R))