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インフレをめぐる3つの疑問
【第2回】 2013年4月23日
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佐々木融

「インフレ=善」、「デフレ=悪」は本当か?

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インフレには3つの種類がある。そのうち、良いインフレはひとつだけ。だが、無理にインフレを起こそうとすれば、良いインフレにつながるとは限らない。そして、仮にインフレに転じることができても、銀行預金程度の資産しか持たない人の暮らしは厳しくなる確率が相当高い。

 そもそも、インフレーション(インフレ)とは何だろうか。

 簡単にいえば「物価上昇」だ。若干小難しい金融用語辞典などで調べると「通貨膨張による物価の持続的騰貴、その逆数としての貨幣価値の下落」と定義されている。インフレとは物価が上がることだが、物価が上がるとはつまり「お金の価値が下がる」ことも意味している。財布の中にあるお札の価値が下がるのである。なぜか?それは、世の中にお札がたくさん出回るからである。

 では、インフレはどのようなプロセスで起こるのだろうか。大きく3つに大別できるが、“良いインフレ”はそのうちひとつしかない。まずは、3つの違いから説明しよう。

 第1は、原油価格、食料品価格等が上昇することによって発生する“悪い”インフレである。雇用や所得を増加させないまま、エネルギーや食料品の価格だけ上昇するので、実質的な購買力が低下する。円安によって輸入品の価格が上昇するのも、同じタイプのインフレである。昨年11月以降進んだ円安により、今後は輸入品の価格上昇が予想されるが、これを喜ぶ消費者は少ないであろう。

最悪のインフレはどのように起こるのか?

 第2は、お札の価値を引き下げることによって発生する“最悪”のインフレである。インフレはここで挙げる3つのタイプ全てにおいて「お札の価値が下がる」ことを意味するが、この場合は、意図的にお札の価値を下げてインフレを引き起こすケースが想定される。特に、中央銀行と政府が無理にインフレを起こそうとすると、このタイプのインフレが起きる可能性がある。お札の価値の下がり方が急激かつ大幅になりやすいので、ハイパーインフレーションにつながる可能性が高い。今の日本も、そのリスクを排除できない。

 このタイプのインフレは、どのようなプロセスを経て起こるのだろうか。

 元来、お札の製造原価は1万円札、5000円札、2000円札、1000円札のいずれもそれほど大差はなく、20円前後である。それを、皆さんが1万円札は千円札の10倍の価値があると信じているから、実際に10倍の価値があるかのように使われている。しかし、日本銀行が株や土地、もしくは国債を大量に購入し続ける中で、政府も多額の歳出を行ったとすると、株や土地を保有していた人や、政府の歳出により潤う人たちの預金が急激に増加する。その結果、メリットを受けた人たちが預金を取り崩すことで、市中に流通するお札の量が急増する。世の中に1万円札が氾濫するようになると、所詮は1枚20円程度の紙切れであるから、みながありがたみを感じなくなり、極端にいえば、単なる紙切れ同然となる。これがハイパーインフレである。

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佐々木 融(ささき・とおる)JPモルガン・チェース銀行債券為替調査部長・マネジングディレクター。

上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行入行。最新刊は『インフレで私たちの収入は本当に増えるのか? デフレ脱却をめぐる6つの疑問』(小社刊)。


インフレをめぐる3つの疑問

日本では「デフレは悪で、インフレが望ましい」という考え方が広がり、定着しつつあります。特に安倍晋三首相が選挙前から「量的緩和の拡大」「デフレからインフレへ」などと盛んに発言し、実際にマーケットが円安・株高に動いたため、この風潮はますます強まっています。経済が停滞しているのも、若者の就職難もデフレのせいで、インフレになれば経済が活性化し、苦しい生活が楽になるがごとく喧伝されますが、本当にそうでしょうか? インフレの基本的構造や金融政策の仕組み、それらの個人や企業への影響、為替との関係などを分かりやすく解説する全3回。著者は、処女作『弱い日本の強い円』(日本経済新聞出版社、2011年)が11万部と大ヒットした、佐々木 融さん(JPモルガン・チェース銀行債券為替調査部長・マネジングディレクター)です。
 

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