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インフレをめぐる3つの疑問
【第1回】 2013年4月22日
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佐々木融

日銀がお札をすれば、財布の中の1万円札は増える?

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「日銀はバンバンお札を発行しろ!」という人がいる。だが、お札を刷る量は、日銀に当座預金を持つ民間金融機関の需要、つまりは、みなさんのような個人や企業のニーズによって決まる。しかも、個人も企業も、預金残高以上の額は引き出せない。日銀がバンバンお札を刷ったところで、その結果は…?

 昨年末あたりから、盛んに「日銀はお札をバンバン刷ればいいんだ」などという声が聞こえてくる。

 しかしちなみに言うと、残念ながら、お札を刷っているのは日本銀行ではない。

 お札を刷っているのは、独立行政法人国立印刷局(2003年4月までは財務省印刷局)だ。お札の正式名称を「日本銀行券」というが、それは日本銀行が「発行」を行うからである。お札は独立行政法人国立印刷局で「印刷」された後、日本銀行に持ち込まれ、日本銀行の本支店から出たところで「発行」されたことになる。お札は、日本銀行法第46条に基づき、日本銀行が独占的に発行することになっている。

 「ヘリクツは分かった!印刷していないのは日銀でも、発行しているのが日銀なら、日銀はバンバンお札を発行すればいいじゃないか!」という声が聞こえてきそうだ。

 しかし、お札は、皆さんがATMから引き出すときに備えて、各銀行が日本銀行にある自らの当座預金から引き出すものだ。発行したお札が日本銀行の本支店から出ていくかどうかは、日銀でなく、みなさんの需要を勘案した民間金融機関が決めるのである。そして、みなさんが銀行口座に保有している金額以上のお札を引き出せないのと同様に、民間銀行も日銀にある自行の当座預金残高以上のお札は引き出せないのである。

 「日銀がもっとお札を刷れば(発行すれば)いいんだ!」と主張する人の多くは、この点を勘違いしているのではないだろうか。

 金本位制の時代は金(キン)を裏付けにお札が発行されていたが、今は預金を裏付けにお札が発行されている。単純に言えば、預金を持っていない人はお札を引き出せないのである。つまり、日本銀行も民間の金融機関も、自行に預金を預けていない人・会社・銀行に対して、お札は渡せない。

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佐々木 融(ささき・とおる)JPモルガン・チェース銀行債券為替調査部長・マネジングディレクター。

上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行入行。最新刊は『インフレで私たちの収入は本当に増えるのか? デフレ脱却をめぐる6つの疑問』(小社刊)。


インフレをめぐる3つの疑問

日本では「デフレは悪で、インフレが望ましい」という考え方が広がり、定着しつつあります。特に安倍晋三首相が選挙前から「量的緩和の拡大」「デフレからインフレへ」などと盛んに発言し、実際にマーケットが円安・株高に動いたため、この風潮はますます強まっています。経済が停滞しているのも、若者の就職難もデフレのせいで、インフレになれば経済が活性化し、苦しい生活が楽になるがごとく喧伝されますが、本当にそうでしょうか? インフレの基本的構造や金融政策の仕組み、それらの個人や企業への影響、為替との関係などを分かりやすく解説する全3回。著者は、処女作『弱い日本の強い円』(日本経済新聞出版社、2011年)が11万部と大ヒットした、佐々木 融さん(JPモルガン・チェース銀行債券為替調査部長・マネジングディレクター)です。
 

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