安倍晋三首相のロシア訪問を前に、LNG(液化天然ガス)をめぐって動きが入り乱れている。天然ガスを東アジアに売り込みたいロシア各社と、ロシアからの供給拡大をもくろむ日本の商社の思惑が交錯。商社間の競争も熾烈化して対立の構図が浮き彫りになり、肝心の安価なLNG輸入計画にも影を落としている。

 混乱の引き金をひいたのは4月17日午後に資源エネルギー庁に届いたある知らせだった。

 内容は、ロシア政府系石油会社のロスネフチと日本の商社である丸紅が、LNG(液化天然ガス)の基地建設などで覚書を交わしたというものだった。

 ロスネフチは今や生産量で米エクソン・モービルを超え世界1位となった石油会社。巨大企業との提携だけに、本来なら歓迎してもいいはずだが、経済産業省幹部は「一体、何が起きているのか」と声を震わせた。

 経産省が怒りを見せたのはなぜなのか。それは、官民合同で取り組んできたプロジェクトから丸紅が“抜け駆け”したためだ。

 ロシア極東では、日本の官民によるサハリン石油開発会社(SODECO)がロスネフチと共に「サハリン1」という石油プロジェクトに取り組んできた。SODECOには、経産省が最大の50%、丸紅は4位の約12%を出資しているが、丸紅は各社に事前に知らせずに、國分文也社長が17日、急遽モスクワを訪問し、覚書を交わしたのだ。

 怒りの声は、SODECO本体からも聞こえる。

 実はロスネフチは2月、同じサハリン1に参画しているエクソンともLNG計画で協力を拡大することで合意。4月初頭にエクソンの担当者が日本を訪れ、SODECOの幹部とサハリンでのLNG開発の詳細協議を行い、早期の事業開始の検討を進めていた。