この数年、スタートアップのテーマは、コンシューマー向けの事業が大多数だった。特に日本では顕著で、ソーシャルウェブやスマートフォンなどがそれを加速した。

 しかし、コンシューマー向けビジネス一辺倒のスタートアップイベントや、それらを紹介する報道に、筆者は違和感というか、何とも言えない寂しさを感じることも少なくなかった。エンタープライズ(さらに広く言えばB2B、法人向け)ビジネスを展開するスタートアップはどこに行ってしまったのか、と思っていた。

 一方で米国では、エンタープライズがスタートアップのテーマとして注目を浴びている。もともと米国のエンタープライズ分野は大きなポテンシャルがあり、すでに2~3年ほど前から台頭している。その上、その領域は従来考えられてきた分野から拡大が見られ、次世代のエンタープライズ時代の到来と呼んだ方がよいだろう。

エンタープライズ市場の転換期
次世代ソリューションを求めるユーザー企業

 次世代のエンタープライズ時代の到来を象徴する、ビッグ・ニュースを2つ紹介しよう。

 まず、2011年10月のヒューレット・パッカードによるAutonomy(パターン認識技術を応用したエンタープライズサーチやナレッジマネジメントなどのアプリケーションを提供)の110億ドル(約1兆1000億円)での買収だ。史上最大規模のソフトウェア会社の買収として騒がれた。

 そして、2012年10月、クラウドによる人事ソリューションを提供するWorkdayが、45億ドルの時価総額でニューヨーク証券取引所にIPOしたことだ。しかも同日74%の値上がりをし、現在110億ドル(約1兆1000億円)の時価総額となっている。

 この一連のニュースは、二つの意味を持つ。一つは、エンタープライズ分野のポテンシャルが膨大であるということだ。これは、エンタープライズ・ソリューションのベンチャーが、1兆円超の評価をつけたことが示している。

 もう一つは、従来のエンタープライズ事業の課題の大きさだ。

 従来型のエンタープライズ・ソリューションは、やたらと“重たい”ものが多かった。つまり、ライセンスが高額で長期の契約となり、ERP(統合基幹業務システム)のように全社的に関わるようなものだと大きな金額となり、頭痛の種になっていた。

 しかも、ソフトウェア自体が重たく、コンサルティングやカスタマイズに多額の追加的支払いが生じる。4割以上の企業で予算を超過したとの報告もある。大企業がERPを導入するとトータルで数十億円かかるのは不思議ではない。また、複雑さゆえにソフトウェア・ベンダーへの依存度も大きい。したがって、ユーザー企業は一旦契約すると、ソフトウェア・ベンダーに手足を縛られたような、言わばロック・インされた状況に追い込まれやすい。