座禅や瞑想は、集中力を高める手法としてビジネスパーソンの間にも広く取り入れられている。『EQ こころの知能指数』の著者ゴールマンによれば、瞑想の効果は脳神経科学の観点から証明されているという。挫折や不安から立ち直る「再起力」を強化する瞑想法を紹介する。


 再起力を強化する方法は2つある。1つは内省すること。もう1つは脳を再訓練することだ。

 大きな失敗をして落ち込んでいる人は、心理学者のマーティン・セリグマンがHBR誌の論文「トラウマを糧にする法」(邦訳は本誌2011年7月号)で提供している、思慮に富むアドバイスを参考にするとよいだろう。内省して認知的介入を行い、楽観主義によって敗北者的な思考を解消しよう。悲観的な考え方をやめ、将来を前向きに捉えるのだ。

 だが幸運にも、大きな失敗は人生においてそう頻繁に起こるものではない。

 では、リーダーが日常的に経験する、より些細なミスや挫折、動揺から立ち直るにはどうすればいいか。その答えもやはり再起力だが、この場合は少々やり方が異なる。脳を再訓練する必要があるのだ。

 日々積み重なる厄介ごとから立ち直ろうとする際に、脳は非常に独特なメカニズムを働かせる。しかも、ちょっとした努力で、日常の気が滅入るような出来事から立ち直る能力を向上させることができるのだ。

 気が動転している時には、あとで後悔するような言動をとってしまうものだ(そうでない人などいるだろうか)。これは、扁桃体――危険を察知して闘争・逃避反応(fight-or-flight response)を誘発する、脳のレーダー――が、前頭前野にある遂行機能を乗っ取ったことを示す確かな兆候だ。神経の観点からいえば、この乗っ取られた状態をすぐに解消することが再起力につながる。

 ウィスコンシン大学の神経科学者リチャード・デビッドソンは、扁桃体による乗っ取りが生じた後にエネルギーと集中力を取り戻すための回路は、前頭前野の左側に集中していることを発見した。また、動揺や不安を感じている時には、前頭前野の右側が活発に活動することも確認している。前頭前野の左右の活動レベルには個人差があり、それが日々の気分に影響を及ぼす。右側が活発になると苛立ち、左側が活発になるとさまざまな憂鬱からすぐに回復する。

 デビッドソンは職場におけるこの現象を研究するために、四六時中強い緊張を強いられている新興バイオテクノロジー企業のCEO、およびマサチューセッツ大学メディカル・スクールのジョン・カバットジンとチームを組んだ。カバットジンは、バイオテクノロジー企業の従業員たちに「マインドフルネス」の指導を行った。これは、その瞬間起きていることを認識しながらも反応はしないように全意識を集中させる、注意力トレーニング法である。