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野口悠紀雄 未曾有の経済危機を読む

「君たち間抜けだなぁ。重要なのは水準なんだぜ」
~経済回復の偽装データにご用心

野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
【第43回】 2009年10月31日
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 “It's levels, stupid ─ not growth rates.”(君たち間抜けだなぁ。重要なのは水準なんだぜ。成長率じゃあない)

 この(品位に問題なしとしない)言葉は、私が言ったことではない。これを言ったのは、イングランド銀行総裁のマービン・キングである

 ただし、私も同じように考えている(“stupid”と言わないだけである)。成長率がプラスに転じたから「経済はよくなっている」という意見が多いのだが、「水準はピーク時に比べて非常に低いままだから、事態は依然として深刻」という警告だ。

 「経済変数が激しく変動しているときは、指標をどう見るかが重要。対前年同期比で見ると、錯覚に陥りやすい」。本連載の第13回でこのように指摘したことがある(拙著『未曾有の経済危機 克服の処方箋』補章も参照)。

 経済の急降下が始まってから約1年たったいま、この注意は格別重要なものとなった。なぜなら、比較の対象とされている1年前の数字は、正常なものではなく、かなり落ち込んだ数字だからだ。したがって、「1年前と比較してよくなった」と言っても、「いまがよい」ということにはならないのである。

 キングは著名な経済学者である。ところで、経済学では、「効用は、所得や富の水準で決まる」と考えている。だから、彼は、経済学者としては当然至極のことを言っただけだ。

 しかし、経済学者から見れば当たり前のことが、世の中で受け入れられないことは多い。経済データの見方もその例だ。

変化率はもちろん重要だが

 誤解しないでいただきたいのだが、キングも私も、「変化率に意味がない」と言っているのではない。事態がどちらの方向に向かって変化しているか、どの程度のスピードで変化しているか、というのは、重要な情報である。ただし、それは、将来の水準を占うために重要なのだ。

 物理学では、現在の位置、速度(位置の変化)、加速度(速度の変化)を明確に区別している。

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野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『情報の経済理論』『財政危機の構造』『バブルの経済学』『「超」整理法』『金融緩和で日本は破綻する』『虚構のアベノミクス』『期待バブル崩壊』等、最新刊に『仮想通貨革命』がある。野口悠紀雄ホームページ

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