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農業開国論 山下一仁

自動車特需終焉で苦しむ地方を救う
農山漁村サービス産業化の勧め

山下一仁 [キヤノングローバル戦略研究所研究主幹/経済産業研究所上席研究員(非常勤)]
【第10回】 2008年12月12日
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 先日来、国内自動車産業のリストラのニュースが続いている。農林水産省において農村振興にも従事した経験のある筆者からすれば、こうした報道を耳にするたびに、中央と地方、もっといえば、都市部と農村部の格差に胸が痛む。

 実際、今年10月の有効求人倍率(季節調整値)を見ると、北海道、東北、九州といった地域は軒並み全国平均(0.80)を下回る数字となっている。雇用の受け皿となってきた工業の苦境は、中国の農業・農村・農民の三農問題――都市部と農村部の所得格差は3倍以上と言われ、さらに拡大傾向にある――ほど深刻な事態を招かないとはいえ、日本においても地方の衰退を加速させるのは必定であろう。たとえば自動車の国内需要は若者のクルマ離れなどを背景に構造的に低迷しており、今後海外需要の回復で業績を戻したとしても、従来と同じ規模の雇用の受け皿であり続けることは期待できないのではないだろうか。

 さて連載の今回は、これまでとはやや趣が異なるが、工業などに雇用を提供してきた地方、特に農山漁村をクローズアップしてその復興策を考えたい。周知のとおり、農山漁村では、過疎化、高齢化が進行し、今後急速に人口の減少が進むと言われている。

 読者諸賢も、「限界集落」という言葉を耳にしたことがあるだろう。65歳以上の高齢者が半数以上を占め、冠婚葬祭などの社会的共同生活が維持できなくなっている集落を指すとされるが、この定義に当てはまる集落が増加しているのだ。ある調査では、今後、1400の集落が消滅する可能性すらあるという。

 かつては不況になると都市から農村に人が帰るといわれた。短絡的に考えれば、今日でも、工業から離れた人たちが農林漁業に回帰すれば、過疎の問題も解決するし、農山漁村の衰退にも歯止めがかかるということになるが、いうまでもなく、事はそのように単純ではない。まず大前提として、所得格差や都市の利便性などを背景に、地方から都会への人口移動が加速しているという抗いがたい流れがある。地方(多くは農村部)にある工場縮小に伴い、都会のサービス業などに勤労層が流出することで、高齢化、過疎化はさらに進展する可能性が高い。

 乱暴な言い方かもしれないが、こうした農山漁村に対し、ただ過疎化対策として、政府がおカネをつぎ込んだところで、大きな成果は期待できないだろう。これまでも相当な対策が講じられてきたが、過疎は解決するどころか悪化する一方だ。公共事業で金をばら撒けば短期的にはしのげても、根本的な問題を解決したことにはならない。肝心の問題は十分な所得を得られる雇用の場がないからであり、その最大の問題が解決されない限り、過疎が過疎を生む悪循環の流れを断つことはできない。以下、農山漁村の活性化について、筆者の持論を述べさせてもらいたい。

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山下一仁 [キヤノングローバル戦略研究所研究主幹/経済産業研究所上席研究員(非常勤)]

東京大学法学部卒業。同博士(農学)。1977年農水省入省。同省ガット室長、農村振興局次長などを経て、2008年4月より経済産業研究所上席研究員。2010年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹。主著に『日本の農業を破壊したのは誰か―農業立国に舵を切れ』(講談社)、『企業の知恵で農業革新に挑む!―農協・減反・農地法を解体して新ビジネス創造』(ダイヤモンド社)、 『農協の大罪』(宝島社新書)、『農業ビッグバンの経済学』(日本経済新聞出版社)、『環境と貿易』(日本評論社)など。


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