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【チック・コリア「リターン・トゥ・フォーエヴァー」】
夜の音楽ジャズに朝の光を呼び込む

小栗勘太郎 [音楽愛好家]
【第63回】 2013年7月11日
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 誰にでも、“青春の彷徨(さまよ)い”とでも呼ぶべき一時期があります。

 無尽蔵に有るエネルギーの行き場が見つからず、七転八倒する状況です。

 成功が運命づけられていたかの如く見える偉人だって、実は、人生に悩んだことが必ずあります。自らの進むべき道に確信が持てずに、あれこれと手を出し、酷い失敗に遭遇した若き日々があったはずです。大企業の伝説的な経営者だって、自らのアイデアで思う存分に突っ走って上手くいかず、左遷され自暴自棄になった時期があったと語ったりしています。

 しかし、大切な事は、試行錯誤を繰り返し、様々に遍歴を重ねた後です。青春の彷徨いがさ迷いのままで終わる人も少なからずいるでしょうが、本物の成熟は彷徨と遍歴を重ねた末に訪れるということもあるのです。

 と、いうわけで今週の音盤は、チック・コリア「リターン・トゥ・フォーエヴァー」です(写真)。

ジャズの風景を一変させたカモメ

 「リターン・トゥ・フォーエヴァー」という一枚のアルバムの持つインパクトは今も色褪せません。

 ジャケット写真の中心にいるのは海面すれすれを飛ぶカモメです。色調は少々くすんだ青と緑と灰色です。太陽が昇りきる前の極僅かな時間にだけ存在する稀有な早朝の海をイメージさせます。村上龍の「限りなく透明に近いブルー」的な時間帯です。それまでのジャズにはなかったデザインです。

 リターン・トゥ・フォーエヴァー(Return To Forever)」というアルバム・タイトル兼バンド名がまた秀逸です。これほど素敵で深遠な標題はありません。

 今この瞬間に存在している自分の向かう先は何処なのか? 極めて哲学的な命題です。ゴーギャンの絵にもそんな標題がついていました。その命題に対する一つの回答が此処にあります。それは、過去から連なる伝統でも、まだ見ぬ未来の前衛でもなく、永遠に存続する普遍的かつ根源的なものへの回帰です。音楽の行く末についても暗示しています。

 セールスもまた型破りでした。売れに売れました。新しいオーディエンスを獲得しました。

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小栗勘太郎 [音楽愛好家]

1958年生まれ、牡羊座のB型。某国立大学卒、米国滞在5年。公僕を生業とする音楽愛好家。著書は『音楽ダイアリーsideA』 『同sideB』(西日本新聞社)。『毎日フォーラム』誌にて「歴史の中の音楽」を連載中。


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ビジネス・パーソンは日夜、現場で闘って、日々、喜怒哀楽を感じる。実は音楽の現場も同じだ。だって、音楽もビジネスも、所詮、生身の人間が作る、極めて人間くさい営みだから。音楽には妙な薀蓄など不要かもしれないが、音楽が生まれる時には物語がある。それを知って聴けば、喜びが倍になり、悲しみが半分になるかもしれない。毎週1枚、心のビタミンになるような音盤を綴ります。

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