ボストンマラソン爆弾事件の容疑者がチェチェン人兄弟だと判明して間もなく、オバマ政権が進める移民改革制度に反対する保守派は移民の増加は凶悪犯罪やテロを助長するという主張を開始した。実態はどうなのだろうか? 

テロ事件の余波が移民政策にも

 260人以上の死傷者を出したボストンマラソン爆弾テロ。アメリカ国内におけるテロリズムの脅威や、戒厳令のような状態で行われた警察の捜査に注目が集まったが、テロを決行した2人の兄弟がチェチェン人の両親をもつイスラム教徒で、ダゲスタン共和国やキルギス共和国に移り住んだ後で難民としてアメリカに移住した背景が存在したため、事件の全容がほぼ解明されてもなお、アメリカ社会に思わぬ波紋を広げている。

 2期目に入ったオバマ政権は重要課題の1つとして移民制度改革を掲げており、1月末には上院の与野党議員が新移民制度の枠組みで合意。アメリカ国内に1000万人以上いるとされる不法滞在者に市民権取得のチャンスを与えることや、理系の高学歴者を優遇するビジョンも示された。

 オバマ大統領も7月13日に毎週恒例の国民向け演説の中で、移民制度改革の必要性を改めて強調。「上院案は景気回復の大きな起爆剤となるだろう」と語り、移民制度改革によって今後20年で5%の経済成長が期待されるとする専門家チームの調査報告を紹介している。金額にして1兆4000億ドルの経済効果が見込まれると力説したオバマ大統領は、下院に対して移民制度改革実現に向けて早急に行動するように促した。

 移民制度改革にはアメリカ国内で賛否両論あり、産業空洞化が進む中での移民の急激な増加はアメリカ人から雇用を奪う可能性があると指摘する声や、逆に新しい産業や雇用が生み出されるという意見も存在する。また、犯罪の増加を懸念する声も根強い。

 このような意見は先代のブッシュ政権時代から存在したが、4月15日に発生したボストンマラソン爆弾事件は、移民制度改革に慎重な姿勢を示す市民に新たな反対理由を与えた。

 事件を引き起こしたツァルナエフ兄弟が北コーカサス地方出身のチェチェン系移民で、兄のタメルランが2011年の段階でFBIにマークされていたにもかかわらず、当局がテロを未然に防ぐことができなかった点が槍玉にあげられた。間もなくして「欠点だらけの身元調査で、本当に移民としてアメリカにやって来る者のバックグラウンドを把握できるのか」という議論に変化してしまったのだ。