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クラウド、モバイル、セキュリティが激変する!?
チップスケール原子時計の影響力

佐藤一郎 [国立情報学研究所・教授]
【第9回】 2013年8月13日
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角砂糖大の原子時計が秘める可能性

 原子時計の小型化が進んでいます。それはチップスケール原子時計と呼ばれ、製品化も始まっています。例えば米国のベンチャー企業、シンメトリコムが製品化したチップスケール原子時計は、4×3.3×1センチですから、だいたい消しゴムぐらいの大きさですし、その中で原子時計そのものは1立方センチ、つまり角砂糖よりも小さいサイズです。現在、日本標準時として使われている原子時計は大きめのサーバ筐体くらいあり、それを考えると、チップスケール原子時計は格段の小ささになります。

 なお、チップスケール原子時計では標準時の計時で利用されているセシウムではなく、小型化が容易なルビジウムが使われていますが、ルビジウムの場合、セシウム原子時計と比べると誤差が3桁ぐらい大きくなってしまいます。だいたい100億分の1秒の誤差となります(わかりやすく書くと300年に1秒ずれることになります)。セシウム原子時計より誤差が大きいと行っても、コンピュータや腕時計に内蔵されている時計、つまりクオーツ(水晶発振子)と比べると1万倍ほど正確な時計となります(クオーツ時計の誤差は100万分の1秒)。

 チップスケール原子時計は半導体技術を使って作られるので、今後いっそうの小型化と低価格化が進むでしょう。そうなると、サーバなどの高性能コンピュータに原子時計が内蔵されることは十分想定され、「すべてのコンピュータに原子時計が搭載される」こともまったくの荒唐無稽の話とはいえなくなってきています。

 コンピュータにチップスケール原子時計が搭載されるようになると、測位、認証、インターネット、無線、暗号化などの多方面に大きな影響がおよぶだけでなく、新しいアプリケーションや産業を生み出します。

あなたの位置が誤差15センチで正確にわかる

 空間的位置と時間とは無関係に見えますが、時計の精度が上がると位置を計る、つまり測位の精度が格段に上げられます。

 例えばスマートフォンを含む電波の発信源の測位では、到着時間差方式と呼ばれる方法を用いることがあります。電波は基本的に光と同じ速度で伝搬することがわかっているので、発信された電波を3ヵ所以上の地点で受信して、地点同士の受信時間の差を調べ、その差から発信源を測位します。

 しかし、各受信地点の時計がクオーツ時計の場合、クオーツ時計の誤差の影響を受けてしまい、正確な受信時刻がわかりません。受信地点を増やしたり、最新の補正技術を駆使しても、例えば30メートル×30メートル程の室内空間ならば1メートル以上の測位誤差が出てしまいます。

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佐藤一郎[国立情報学研究所・教授]

国立情報学研究所アーキテクチャ科学系教授。1991年慶応義塾大学理工学部電気工学科卒業。1996年同大学大学院理工学研究科計算機科学専攻後期博士課程修了。博士(工学)。1996年お茶の水女子大学理学部情報学科助手、1998年同大助教授、2001年国立情報学研究所助教授、を経て、2006年から現職。また、総合研究大学院大学複合科学研究科情報学専攻教授を兼任。
専門は分散システム、プログラミング言語、ネットワーク。


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分散システムの研究を核としつつ、ユビキタス、ID、クラウド、ビッグデータといった進行形のテーマに対しても、国内外で精力的に発言を行っている気鋭のコンピュータ・サイエンス研究者が、社会、経済、テクノロジーの気になる動向について、日々の思索を綴る。

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